=5=
■夜の繁華街 結界内
ギャアアアアアァーーーーーンンンッ!!!!!
後ろから…車が追って来る。
とても…楽しそうに踊っている。
愉しそうに吼えている。
ガァアアアアアアアンンッッ!!
パパパパパァァンッ! パンッ! パンッ!
ゴァアアアアアアアンンッッ!!
クラクションを鳴らし
車をツイストさせ
まるで獲物を嬲っているかのように
迫って来る。
不思議だったのは…誰も人がいないコト。
いくら遅い時間とはいえ…そんなコトが……?
ブオォン! ギャギャギャアアアアンッ!
来る!
「避けてッ!」
次郎さんの肩を押して、真横に飛ぶ!
車が猛スピードで横を抜けて行く
これでまた少し時間稼ぎが出来た
この間に…少しでも人のいそうな……えッ!?
次の瞬間、車は信じられない動きを見せた。
とんでもない速度だというのに、直角に向きを変え
私たち目掛け…突っ込んで、来た…
ドンっ
体に鈍い衝撃が伝わり、そして宙を舞う
次に来る衝撃は、固いアスファルトに
叩き付けられる自分の体…ね
──覚悟を決める
いくら痛覚がなくても、骨が砕け内臓が破壊され
脳が挫傷すれば、そこで死に終わる。
…
……
…………?
だが…それは思いの外、小さな衝撃で済んだ
「う、ぐ……がはッ!」
声。…声? それは内でなく外からする声……
え……まさ、か?
「次郎、さん…? 次郎さんッ!」
私の体と、アスファルトの間に
まるで綺麗に畳み込まれたかの様に
次郎さんの体があった。
彼は…私の身体を庇うために…
ど、どうして…
どうしてそんなにまでなって、私を──
「護ろうとするの?」そう、言おうとして
出掛かった言葉を呑み込んだ。
私を護ってくれる人なんて…居るわけない
こんな私を──
人の死に様が楽しくてしょうがない女を…
こんな血まみれの瞳を持つ女を…
穢れ切った身体を持つ女を…
護りたい人なんて…いるわけが──
「護りたいんだ…藤乃、を…」
───ッ!
「実は俺…藤乃とは一度だけ…会っているんだ…」
次郎さんは…顔を歪め、声を強張らせ、
どうにか声を出している。
私は…眩暈を感じつつ、その固く受け入れ難い言葉を
静かに聞いていた。
「俺…あのチームのメンバーって
訳じゃなかったんだけど、兄に呼ばれて
時々出入りしてた頃があったんだ。
そう…あれは…忘れもしない夜。
梅雨前だというのに、とても暑かった晩のこと、
あのバーの廃墟で…貴女を見かけたんだ。
何で貴女みたいな人がこんなところに、って
思ったんだけど…俺、そのあと直ぐ、あそこから
叩き出されちゃって…さ。ゴホッ…ゲホッ…
今にして思えば……後悔してるんだ…
ちょっと考えれば…あの後、何が起きるのか
くらい…分かるだろうに…」
ガリッ
彼は…固い、硬いアスファルトに…
渾身の力をこめ爪を突き立てていた。
生爪が剥がれ指先から…血が滲み出し
新しい血糊が掌を染めていく。
ぶるぶると身体を震わす次郎さん。
その姿を見て思った。
[この人は…嘘をついている…]
その時、次郎さんは本気で私を助けようとしていたんだ
叩き出されて終わり、じゃない
…大勢に囲まれて…動けなくなるまで…殴られて…蹴られて…
助けたくても…助けれらなかったんだ
なのに…なのに…どうしてそうやって自分を責めるの?
悪くないのに…
脳裏に、バーでの出来事が流れていく
[痛くない…痛くない…居たくない…イタクナイ…]
[こんなところには…イタクない…]
「ごめん…。俺や兄貴のしたことが
そう簡単に許されるなんて思っちゃいない。
だけど…今はこれしか…」
それは…私も…同じこと
彼らは私を壊した 幾度も…幾度も…
直しても直しても…その度に壊された…
でも……それでも私は生きて居る
生きて居ないのは…私が壊した彼らの方だ
私は罪と罰を背負った…
それでも生かされている
先輩に救われ、式さんに救われ、橙子さんに救われ
今また…次郎さんに……
──だから
『もっと…もっと思っていたい』
ギャギャギャアァーーーーーンンッ!!!
勢い余って道の向こうまで行ってしまった
あの車が、Uターンする。
次は無い。
さっきの奇妙な動きを見て分かった。
[あれはもう…人じゃない、車じゃない]
今度は──本当に狩られる
今度こそ──逃げ切れない
「藤乃、早く逃げ──」
「次郎さんッ」
「──ッ!?」
「私の背中を…強く叩いて下さい!」
「え……?」
<☆この辺で#1のサントラ、track13開始♪>
まだ遠くの車。
私たちは…広い車道の真ん中。
「早く! 叩いてッ!」
「で、でも…どうして?」
車のライトがハイビームに切り替わる。
「お願い、叩いて! 時間が無い!」
「あ…う……ご、ごめんッ!」
バンッ! ──掌で叩かれる
「ダメ、もっと強く!」
「くッ──」
ゴンッ! ──拳で叩かれる
「もっとッ! もっと強くッ!」
「ちっくしょぉ!」
ガッ! ──肘で、打たれる!
「がふッ──!?」
来た…来た……
ひたひたと背を昇ってくる
禁断の悦びを伴う懐かしい感覚。
そして…この身を取り巻く世の仕組みが歪み、
私はこの瞬間から…世界の異端となる。
排除しようとする圧力、
抗う自分、
それが──力の根源……
「次郎さん…逃げて……」
恍惚とした知覚 [背徳の知覚]
体が疼く快楽 [禁断の快楽]
さぁ、殺せ── [さぁ、生きろ──]
「アレの目的は私…。だから…次郎さんは、逃げて」
ゴアァァァァンンンンンンンンンッッ!!!
さぁこれでいい
もう…私を止められるモノは…ない
<☆このあたり、限定版DVDジャケットの
振り返りふじのん画の感じで~♪>
狂ったように迫り来る車。
それはあと一秒もなく激突するだろう。
今の視力でも十分にそれは照える(みえる)。
だけど──その動きはあくまで機械的
ふふふ、あの人の出鱈目な動きに比べれば
あんなの、どうってことない
さぁ…回転軸を──えっ!?
その刹那、自分を背後から抱く手に気づく
……優しい腕
振り返ると──
もう直ぐ車に轢かれるというのに、
次郎さんは、逃げずにそこにいた。
次郎さんは真っ直ぐ私を見ている…
彼の瞳に──赤と黒の光を纏った私が映る
私の光る瞳が──映っている
『注視して…本質を知れ…』
──そう、これが──私の力
振り返り、車にセット!
<☆このあたり、パンフレット巻末の
原作絵師さんのふじのん正面画の感じで♪>
この力、見えるモノなら神さえも凶げよう
だけど──自分を凶げたりは、しないッ!
「────凶れぇ!」
‥‥グジャッ
一瞬の静寂──
そして……
ズッガシャアアンンンンンンッッ!!!!!
二つ先の交叉点に墜落する、鉄の塊…
誰もいない街角に、その衝撃音が木霊していき
やがて僅かな反響を遺し蒸発していく。
だが──まだ終わってはいない
「あぁぁぁ……ぅぅぅ……」
破壊された大きな車の中に…それはいる。
「痛ぇ……痛ぇよぉぉ……」
人だったモノが、歪んだ車に挟まれ
歪(いびつ)に形を変えている。
[黒くなってもいいてすか──]
[──いいですよね]
「…凶れ…凶れ……凶れ……」
「ぁぁぁ……ぉぉ……ぅ」
アレが今迄殺めた女の子の分だけ…
身体を捻じ曲げていく。
やがて、漏れ出たガソリンに火が着いた。
「ああああぁぁ、熱ぃ! あーッ!
痛ぇ! 熱ぃ! ぎぁぁぁああああ……ッ」
焼かれていく…生きたまま…焼かれていく
人だったモノ。
皮が裂け、肉が飛び散り、はみ出た骨が燃えていく。
流れ出ている血が、
フツフツ音を立てて沸騰していく。
「痛い? 痛いですか…? ふふ…痛い、ですか」
言い様の無い快感が脳と身体を支配していく。
爪先から体の中心を抜け…恍惚感が全身を円還する。
どんな理屈も、その前には通用しない。
「!」
と……いきなり視野が奪われる
……抱かれて、いる?
「藤乃……」
次郎さんの胸に…私が…抱かれている
「藤乃、もう、いいんだ……もういいんだよ」
彼の胸から骨伝いに声が聞こえる
「止めて…くれるんですね……うれし、い……」
温かい
気持ちいい
そして──懐かしい──
途端に涙が溢れてくる
「う、う、……わぁぁん………」
お母さんに抱かれて、泣き出してしまった
あの時の自分が、今また、ここにいる……
ただ泣いている
──哀しいわけではない
──怖いわけでもない
[ただ…泣きたいから…泣いている……]
「タスケ…タス…テ……」
声が聞こえる
燃え盛る炎の中で、それはまだ逝きていた
「う、どうしよう……
悪い奴だったけど…救急車とか、呼んだ方が…」
「……その必要は…ないです」
まだちょっと流し足りない涙を
指の背で払い、そっと振り返る。
「彼は手遅れです、もうずっと前に。
それに…もし、あのまま放逐したら
もっと災いを振り撒くと思います。
だから…逝かせてあげないと……」
彼の肩越しに…
車だったモノを──直視する。
[アレの本質は解明済み]
欲望に付け込んで男を中から喰らい、
そこに隠れ居るモノに…統覚を集中
「魔枯れ……」
車内から、魔の気配が枯れ落ちていく。
[其は…浅神の古文書に在りし…退魔の力]
魔とはいえ、その存在をこの世界に繋ぎ止めていた
不可思議な理(ことわり)を捻り切る
刹那、不思議な感覚に取り巻かれる?
身を取り巻く不快感は…そのままだけど
外からの圧力が…消えていく…?
[わたしは…ここに居ても…いいの?]
ボヴァッ!!
「うわッ!? 車、が…?」
炎が、白熱化する
そして間もなく、それは跡形なく
燃え去っていった……
「はい、これでお終いです」
──ストンっ
え? ──あれ?
足腰から力が抜け、尻餅をつく。
力が…入らない?
そっか…痛覚が…元に……
そう思った瞬間、体から存在感が
ふぅっと消えていき、
姿勢を維持できなくなっていく。
「!」
…と、目の前に手?
次郎さんの手。
「…ありがとう」
握った手を頼りに…
「あ…れ…?」
やっぱり右足に力が入らない。
ストンッとまた片膝をついてしまう。
「だ、大丈夫か!? どこか打った……
いや…やっぱり…さっき背中を突いたのが…」
次郎さんは申し訳なさそうにそう言って──
「あ…」
私に背中を向けてしゃがみこんだ。
その姿を見て…心臓がドキドキ踊りだす。
信じられなかった!
自分に…まだこんな感情があったなんて。
ちょっとお行儀が悪いけど…この直球な
誘惑には勝てず、お背中チョット拝借です♪
そんなに大きな背中じゃない。
でも…とても懐かしい背中…。
彼がこちらを見えないのをいいことに、
こっそり二度三度と頬擦りしてしまった☆
「痛くないですか? 大丈夫ですか?」
「少し…いたいです。いたいですよ……。
でも……もう、平気ですから」
そう小さく、彼の耳元に…訴えた。
──居たいと涙は流した。
だからもう泣く理由は残っていないのだから。
もう夜明けが近い。
頭上に星を湛えた蒼天が広がっていく。
そんな空を見て思う──
「今、あの二人は…どうしているのかな…」
<終わり>
最近のコメント