七夕SS?

=七夕 特別SSもどき?=
------------------------------

■朝の衛宮邸
「ぁおーっとっととぉ~~」

それは、早朝の茶の間の静寂を破る、
素っ頓狂な声で始まった。

「藤ねえ…いったいナニを?」
まがりなりにも一介の教師たる者が、
大きな葉と湯呑みを手に持ち、
見る者を惑わせる奇妙な……踊り?

──いけないっ!

あの踊りは、見る者から貴重な魔力を
奪うという『伝説』のスキルに違いない!

「えっと…先生、これでいいですか?」
桜が、埃を被った硯と、半紙を手に
トコトコと奥からやって来る。

…むむ? いったいナニが始まるのか?
もしや…桜まで怪しい(妖しい?)踊りを…

(ドキドキ)

「習字──を、するつもりのようですね」
桜に寄添って来たライダーが興味深げに呟く。

──ああ、そうか。
今日は…『七夕』だったか。

大きな葉は採れたての里芋の葉。
葉に載るコロコロとした朝露の雫を
器用にも?湯呑みに集めていたのだ。

集めた朝露で静かに墨を磨る藤ねえ。
見た通りお茶目な教師なのではあるが、
あれで習字の腕前はかなりのものだ。

「これでね、お習字すると字が上達するのよぅ。
 ついでにね、短冊に書き込めば
 願いも適うという訳で一石二鳥よねー♪」

『願い』と、そう聞いて、
かつて浅からぬ因縁の渦中にあった我々としては、
これを須らく無視することは到底出来ない…よな?

と言うわけで、習字のお時間となる。

桜もライダーも、真っ白な紙を前に
神妙な顔つきで座している。

む? ライダーって…習字できるのか。
…そういや、ライダーの願望って…?

二人は呼吸を合わせたかのように
揃って筆を手にとり、さらさらと筆を踊らせる。

俺も、脳裏に浮かんだ一文字を……
紙の上になぞりあげた。

筆を置き、一呼吸を入れる。

さて、どれどれ、と桜のを覗くと──
黒々とした墨で『平常心』とあった。

まぁ…ある意味、桜だな。うん。
で、ライダーは……

自転車』。

そう来たか。
いや、あのチャリは絶対譲らないゾ…

で、藤ねえはというと──
それはもう玄人も舌を巻くほどの達筆で

朝御飯、まだー?』。

「…………」

はいはい。直ぐに用意しますよ、と。
呆気にとられていた桜と目を見合わせた後、
肩を並べて台所へと移動する。
うむ。里芋の煮っ転がしでも作るか。

時に、俺が書いた文字は

「ふふ、ベタですねシロウ」
「…………(なんでさ)」

■その夜のこと
桜は夕食の支度をしながらも
時折、台所を離れては、縁側とを往復していた。
それは空模様を気にしての事だったのだが
ここに来て、それはついに降り出してしまった。

「……雨」

おれも桜も、雨は嫌いではない。
むしろ彼女にとって雨は「悪しき」ものではなかった。
だが、今宵に限っては歓迎できぬ憎まれ役である。

仕度を終え、あとは藤ねえの帰りを待つだけとなる。
しょんぼりとした背を見せる桜の横に、そっと並び
天を仰ぎ見る。

「これじゃあ、しばらく止みそうにないな……」

空はずっと暗く、そこにあるべき星明りに代わり、
部屋の灯りに反射する雨の軌跡が視野を焦がす。

「織姫と彦星、今年は会えず終いなのでしょうか…」

「こういう年もあるってことだな。
 ということは……この雨、涙雨ってことにもなるのか」

「──洒涙雨と、そう言うそうですね」

静かに桜の横に控えていたライダーが
本を片手に静かに語り始める。

織姫の星、織女星は、ベガ
一方の彦星、牽牛星はアルタイル

ベガは太陽から凡そ26光年。
アルタイルは凡そ17光年離れている。
大雑把だが、お互い15光年は離れているという。
光の速度で15年の距離。

「そんなに離れているのか…想像もつかないな」
「遠距離恋愛…なんですね。
 なのに一年一度、それも晴れた日にしか
 会えないなんて…」

「だな…。
 でもさ、遠く離れていると言っても、
 同じ銀河の星なんだよな」

「ええ。この地球のある天の川銀河は、
 直径にして10万光年以上はあると言われています。
 織女星と彦星の距離とは、断然スケールが違います」

「……同じ銀河(せかい)にある星と星が
 その銀河(せかい)の縁によって分たれているのか」

織姫は、機を織るのがとても上手かった。
でも機を織ってばかりであったから、人と出会う機会も無く
一人長く過ごしてきた。
それを心配した父親に薦められ、牽牛の君と結婚。
だが、幸せの余り大切にしてきた機織を疎かにしてしまい
父の不興を買って、天の川によって分け隔てられてしまう。
悲しみに暮れる娘の哀願を受け、父親は、
機織りに励む事を条件に、一年に一度、再会の機会を与えた。
それがこの七月七日の七夕の夜──

「次の再会まで…また一年…」

「──いいえ、再会は実現可能です、サクラ」
「え?」

「この場にいる者のみに、ですが
 実現する手立てが……あります」

突然、背筋を逆流するゾッとする感覚。
それは──ライダーの気の高まりが故。

「エミヤシロウ、魔力の蓄えは──充分ですね」

そう言うや否やライダーの長躯が視界から消え去る。
同時に魔力による衝撃が胸を貫いた。

────閃光!?

おれたちは、一瞬にして白熱とした強い光に呑み込まれる。

ベルレフォーンッ!!

白き有翼馬は、俺と桜、そしてライダーを背に
夜空を満たす雲を割き、天高く駈け上がって行く。
天馬は、千光年を往くが如く吶喊し
冷たい風の束が、容赦なく頬を叩いていく。

と──
その先に──黒く輝く……雲の切れ間を見た。

「あ……すごい……!」

目の前に飛び込んできたのは……星、星、星……

「宝具は大軍(てき)を屠る為のみにあるのでは
 ありません。いえ…むしろ、こういった使途こそが
 本来の有り様のはずなのです」

「良かった……彦星と織姫が……」
桜が、まるで自分のことのように、ふと呟く
だが、おれといえば満天と散らばる
この圧倒的な星の数に、目が回る寸前だ。

「これだけ星があると…どれが彦星で織姫星か
 ──わからないぞ」

「先輩、あれと──あれです」
目の利く桜が天空の二角を指し示す。
指先を追っても、特定の星に辿り付けず
桜の肩に頬を寄せ、腕から指先の延長線上に
目を走らせる。

ふむ。なるほど確かに、星の川の両岸に
明るい星が仲良く対を成して輝いている。

「感動の対面、ってとこだな。
 お互い…どんな風に見えているのかな…」

ふふふ、と密やかに頬を緩ませライダーが言う。

「ここからと同じく、アルタイルから見たベガは、
 さぞや眩しく輝いていることでしょう。
 ──ですが、ベガから見たアルタイルは
 その天空に散る他の星々と、
 そう変わらぬ明るさで…見つけるのは
 容易ではないかも知れません」

「? なんで?」

「織女星ベガは、この地球から見える星々の中で
 5番目の明るさを持ち、彦星アルタイルは
 12番目の明るさを持っているようですが、
 それぞれの恒星自体の明るさは
 アルタイルよりベガの方が圧倒的に明るいそうです」

「それは……彦星の方は、織姫から見て
 あまり目立ってない、ということか…」

「そうです、シロウ

──なぜそこでおれの名が?

「大丈夫ですよ、先輩。
 わたし、先輩の星なら、きっと──」

と、そこまで言って、その後はもにょもにょと

──ああ、分っている。
桜の視力なら、暗い星でも見つけられるだろう。
だが……おれってそんなに目立ちませんか?

「さて、そろそろ地上に降りたいところだが……」

見上げる星空は意外にも明るいのだが、
見下ろせば、そこは街の明かりすら通さぬ
雨雲で満たされている。

「そうか……。おれたちはこうして天の川を
 見ることができたけれど
 下で見上げている人にとって…織姫と彦星は、
 会えず終い……ってことになるのか」

「……そうとも限りません。
 七夕を巡る幾つかの伝承の中には、
 雨の日に架かる橋、鵲橋の逸話があります。
 雨によって天の川の水嵩が増し、行き来きが妨げられる時、
 何処からともなく鵲(かささぎ)という鳥がやって来て、
 雨の中、二人のために、その背で橋を架けてくれるという
 話があります」

「そっか。……逆境の中でも、
 二人の仲を想ってくれる役者がいるんだな…」


ふと、それがひどく身近に感じた。
それは次第にピントがあっていき…誰かとダブる。
窮地にあって身を挺し、結果、掛け橋となってくれた人。

ああ、そうか──

思い当たるその人が在ればこそ、今この時が紡がれている
そういっても過言ではない。
もしも、彼女がいなかったのなら……?
そう思い描いただけでも身の毛がよだつ。

「その鳥──」

まるでライダー

思わず桜とハモった刹那──
「わ、わぁぁあああああああああああ~~~~ぁぁ!???」

天地がひっくり返るほどの急降下!?
いや、実際、見事にひっくり返っている!
だってホラ! 足元にベガ光って!!

「っと、──失礼致しました。
 どうやら…エアポケットにはまったようです」
平然と答えるライダー。

その言葉の機微が、静かに揺らいでいるのを
おれは聞き逃さなかった。
だが、あえて不問に付そう。
何故ならば…おれと桜の命運は、ライダーが
手綱よろしく握っているのだから……ぁぁ

■衛宮邸 庭
時間にして一時間くらいだっただろうか。
俺たちだけの夜間飛行は無事終了し、
雨に濡れる我が家へと戻ってきた。

「さて──」
天馬を還したライダーが踵を返し──

「先ほどの…魔力の件ですが」
「……です、ね」
──桜とアイコンタクト?

頬を桃色に染めた桜が、俺の手を取る。
「ライダーも一緒に……いいですよね、先輩♪」

「え、あ、ちょ……待…」

こうして──衛宮家の七夕の夜は
桃色風味に更けていくのであった……

■衛宮邸 同時刻の茶の間
そこに新たな文字が書き込まれた半紙は在った。
傍らには、まだ真新しい、うら若き女性の死体?
半紙に遺されたメッセージは──

「ごはん~~~~~餓死しおうにゃわfn」

翌日の朝の食卓が、もの凄かった事は言うまでもない

【終】

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冬空に舞う桜花 32

■衛宮邸
「あら、魔術師であろうとする方が、
 種明かしをご希望なのかしら」

  ピキーンッ!

あ、ちょっと待て遠坂。落ち着け。
髪が……こうボワワーッと……!?
で――
そんな遠坂をクスクス~と眺めているキャスター。
あー、なんだ。
この二人も……似たもの同士……ってことは
ないですか?

「種は――彼です」
そっと首を右にもたげ目を伏せる。
口調は打って変わり、穏やかで慈愛に満ちていた。
キャスターの右背後には……
壁にもたれ寝落ちしている一成の姿。

「一成(かれ)を依り代にして自分の幻影を?
 魔術刻印なんて持っていない普通の人じゃない。
 そんなこと、出来るわけが――」
出来るわけ無いと言わんばかりの遠坂に

「あら、柳洞寺の山門にも魔術刻印はなくてよ?」

むぐぅ、と舌戦にまたも敗退な遠坂。
そうか。キャスターのサーヴァント、アサシンは
山門を寄り代に……だっけ。
そもそも山門に魔術刻印なんて無いもんな。

「あの山門には──
 『相当の歴史』が積み重ねられていた。
 だから、サーヴァントの召喚に使えたのです。
 イッセイには、それほどのモノがない。
 ですが彼には『未来への可能性』があった。
 ですから、それを寄り代にして我が身の幻影を、
 言わば召喚したのです」
まるで俺に話し掛けているように
キャスターは言った。

一般人である一成には魔術刻印は無い。
だから万が一、キャスターの幻影が攻撃を受けても
回路が無いためダメージが一成の身体まで到達しない。
その代わり、幻影の能力は限定され、攻撃力は
豆鉄砲程度に低下。それがあの決定力に
欠けた奇妙な戦いの理由であった。

「ふーん、なるほどね。理屈はわかったわ。
 でも、その幻影が可能なら、臓硯との戦いも
 多少は楽になるかも。
 ね、やり方、教えてくれない?」

「それは無理でしょう。
 サーヴァントとして召喚される際、私が
 生前使用していた魔術式を、現在のシステムに
 シンクロできるようコンパイルとアセンブルが
 幾度も繰り返さてしまった。
 これを貴方に教示しようとするのなら
 最初の一小節で、貴女の脳は容量限界を超えて
 しまい、容易く壊れてしまうでしょう」

キャスターのにべも無い言葉に
がっくり項垂れる遠坂。

「リン、あなたはこの時代の若き魔術師としては
 大変優秀だ。今はまだ経験不足な点も見えるが
 良くも悪くも王道を往く正統派魔術師として、
 大業成すことも可能でしょう」

「正統派、ねぇ……」
「すごいじゃないか、遠坂。
 キャスターに誉められてるぞ?
 さすが五大元素を属性に持つエリートだな」
「士郎。今のキャスターの台詞、額面どおり
 受け取らないでくれる。
 別に誉めてくれたわけじゃないわ、でしょ?」

「ふふ……どう取るかは貴女次第ですが」
「え? 誉めてたんじゃないのか?」

「そもそも魔導に正統派なんてカテゴリーは、
 分類の仕方の履き違えよ」

くすくすと笑ってからキャスターは続ける。
「イレギュラーな物にこそ秘めたる可能性がある。
 それは魔導にも当てはまる
 サクラ然り、シロウ然り……」

「分かってるわよ、そんなこと。
 士郎や桜のそれを見て――
 どれほど打ちのめされたことか。
 でも仕方ないじゃない。
 私の根源(スタイル)はこれなんだから。
 なら、トコトン正統派とやらを
 突き進んでやるんだからー!」
グッと何かを掴んで引き寄せるかのような口調。
なるほど。
これがキャスター流の励ましの言葉、なのか?

遠坂は、トンっと湯飲みを机に置いて言う。
「さて、夜も更けて横道も充分探検したし、
 総括といきましょ。
 結局、教会のこと、どうだったの?
 思惑通りことが運んでたのかしら?」

キャスターは小さく首を横に振る。
「当初の目的、教会の裏を探ることには失敗、ね。
 攻撃の隙に、リンとシロウに教会の中身を
 その目で見てもらおうと考えたのですが。
 朝を待たず、そこに在ったものは
 痕跡残さず消えていることでしょう……」

「それでも金髪のサーヴァントの存在は
 確定できた、と」
今度は小さく頷くキャスター。

ふむ、と一考して遠坂は斜に構えて言う。
「……本当に、それだけ?
 他に何かあったんじゃないの、目的が?」

溜息一つ零してキャスターが答える。
「目的はあったが――
 あなたたちが教会で見たことが全てですよ。
 それ以上でも、それ以下でもない」

遠坂とキャスターのやりとりが良く見えないが……
教会での一連の出来事の中に
何か重要なことが……あったという訳、か。

「――わかったわ。でも……今度から
 事を起こす時は一言欲しいわね」
そう言いながら、よっこいしょっと立ち上がる遠坂。
アーチャーの使った術でかなり魔力を消費したのだろう。

「さーて、全員魔力不足なんだし、もう休みましょ。
 イリヤ、あんたも相当へばってるんでしょ?」
アイスをすっかり食べ終えていたイリヤは
それでも興味深げに遠坂とキャスターのやりとりを
聞いていたのだ。
「ふーんだ、こんな消費量、バーサーカーに比べれば
 大した事無いもの。でも、今日はもう休むわ。
 おやすみなさい、リン。シロウもね♪」
ポンっと立ち上がると、いつもの華麗な挨拶をして
トテトテと廊下に出て行った。

「ああ、おやすみ。ちゃんと歯、磨くんだぞー」

遠坂はくるりと振り向きアーチャーに「どう?」
と合図を送る。
「こちらから撃って出るには心許ないが
 ここで迎撃を決め込むのであれば
 魔力の残量には問題無かろう」
そう言って赤い男は姿を消した。

キャスターも半落ち状態の一成を助けながら
宛がわれている寝所へと向かっていく。

「さて、それじゃ俺も――」
話が済んだのであれば、
一刻も早く行きたい場所がある。
それが気になって、話にも集中できなったくらいだ。
湯飲みなどの片づけを後回しにして
立ち上がろうとすると――

「士郎、あんた、してる時、桜とキスはしたの?」
はいー? いきなり何をー?
とんでもクエスチョンが背後から飛んできた!?

/////////////////
■~今回のNG~

ねこ 「会話シーンだから、盛り上がらないね」
桜  「先輩と……キス……キス……はふ」
凛  「盛り上がっているのが一人」
桜  「当然、再現シーンはあるんですよね☆」
監督 「無い」
桜  「・・・・・・・ゴゴゴゴゴ」

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冬空に舞う桜花 31

■衛宮邸
「なるほどね。でも――
 貴女にしては動機が弱いって感じるけど、
 私の気のせいかしらー」
遠坂は手にした湯飲み越しに
じとーッとキャスターを横目で見ている。

やれやれと顔を傾げたキャスターは
「ここはからは、
 あくまで推測の域を出ませんが――」
そう釘をさして、再び言葉を繋げていった。

臓硯との戦いに介入してくる俺たち以外の第三の
勢力を警戒しているのだという。
この戦いに勢力の鼎立安定はあり得ない。
むしろ、どちらの勢力にとっても、
第三勢力は大変危険な因子となる。
だから事前にその芽を摘んでおきたいと、
そう言うのだ。
そのためには、あらゆる可能性を排除する。
それが例え『教会』であっても、だ。

現に、予想だにもしなかった金髪のサーヴァント
の出現。
あれがもし、臓硯との決戦時に現れていたら
果たしてどうなっていたか。
もし、あいつが俺たちの敵に回っていたとしたら?

そこまで聞いて、
改めて、この戦いの底の見え難さに恐怖を覚える。
まだこれから先、金髪のサーヴァントのような
謎のカードが、繰り出されてくるのだろうか?

金髪……金髪?
「あ、そういえば……
 俺、教会で金髪に会ったことがあるぞ」

「――――ッ!!!!!?」
あ、遠坂ぁ……その目は怖いぞ。

「え、あれ? 金髪? あ、そういえば……
 桜の家の近くで……桜に話し掛けている金髪の男
 見た記憶が……あン、士郎、その目、こわーい」
なんだい遠坂もかー。ドッと疲れがこんにちは。

俺と遠坂の情報を刷り合わせる。
教会で俺が出会った金髪の男――
桜と話していたという金髪の男――
その外人は、もっと背の高い青年だった。
だが、思い出してみれば
教会で出会った金髪の少年――
そのサーヴァントに雰囲気が似ている。
もしや、同一人物、なのか?

「なあ、遠坂。
 言峰も……かなりの魔術師、なんだよな?」
桜を治療してくれた時、蟲の除去に刻印を
消費したとそう言っていた。
――という事は、アイツは相当な魔術師でも
あるわけで
ならばサーヴァントのマスターである可能性も……
もしやあの金髪は……

遠坂は何も言わず、難しい顔をして
もう空となった湯飲みを手の中で転がしている。

「ね、アーチャー。
 あのサーヴァント、どうしたの?」
うむ、そうだ。あの金髪サーヴァントと
対峙していた奴の存在を忘れていた。

「ああ、奴とは戦闘にならなかった」
え、なんでさ? それは驚きだぞ。

「そう不思議そうな顔をするな。
 戦わずして勝つ、これも兵法の一つだろ?」
能力的にはかなりのサーヴァントだという。
だが、魔力の供給に問題が生じたとか
本来の目的を失った――奪われた? とか
そう言っていたそうだ。
だからお互い条件を出し合って剣を収めたと。

「その条件って?」
「あの金髪少年のサーヴァントも
 臓硯に何か恨みでもあるようだな。
 臓硯の始末という条件なら問題あるまい」
「それじゃ、戦いにはもう参加しないと?」
「さぁな。今後どうだかは分からんよ。
 だが……魔力不足は相当なようだった。
 奴の魔力保有量は、セイバーのそれと同じか
 それ以上だろうよ。だが、先ほどの奴には、
 その巨大な器に雀の涙ほどの魔力も
 残っていなかったようだ。
 元々魔力消費の激しいタイプなんだろうが
 アレではそう長くは戦闘に関われまい。
 ああ、何かに魔力をごっそり奪われた――
 そんなことも言っていたな」

訥々とした凛とアーチャーの言葉の応酬。
その様子を、俺やイリヤ、キャスターは
聞き耳を立てる他ない。
口を挟む余地が無いほど隙の無い会話。
んー。遠坂とアーチャーって
いつもこんな風に会話しているのか?
らしいと言えば、らしいのだが……
何か……違和感を感じるのは気のせいか?

「金髪のサーヴァントも当面は聖杯を望まず、か。
 うちの士郎といい、キャスターといい
 どいつもこいつも……欲が無いわね。
 てかルール違反もいいトコだわ……」
はぁ、と大きく溜息。

「なんだよ、聖杯を要らないって言っちゃダメ
 なのか? そもそも聖杯なんてあるから、
 こんな戦争が起こるんだろ?
 というか、俺はまだ聖杯を放棄したわけじゃない。
 桜の刻印蟲を取り除くのに――」
はっ!? 今度はイリヤまでもがムッとしてる?
なんでさー!?

「士郎。そんないい加減な気持ちで聖杯を
 望んでいるわけ?
 もし、もしもよ? 桜が聖杯でしか救えないと
 しても、そんな気持ちでいられるのかしら?
 そもそも、あんたの力だけで桜を救えるなんて
 思っているのかしらね?」
グサッと咽に突き刺さる遠坂の言葉。

「もっとも――まだ手に入れてもいないモノの
 使い道なんて話し合っても狸の皮が
 喜ぶだけかな」
「なんだよ。じゃあ遠坂どうなんだ?」
「え? 前に言わなかったけ?
 わたし、聖杯には興味ないわ。システムには興味
 あるけれど願望なんて無いもの。ただ……
 気に食わない奴が聖杯の力を使う、ってのが
 許せないだけ。だからそうなりそうなら、
 私が手に入れるつもりだった、ってとこ。
 そうね、もし手に入ったら――
 究極至高のたいやきかクレープを
 出してもらおうかしら~♪」

ポカーン

くふふ、と笑っている遠坂を見て
一同、我を失うこと凡そ17秒……
それも遠坂の台詞で強制解除。

「ちょっと横道に逸れて良い?」
ああ、と頷く俺。
別に横道に逸れるのはいつもの事だし。
てか、現時点で充分ここは横道だ。
うん。俺のGPSにもそう表示されている。
あ、イリヤもそう思っていそうだ。

「ね、キャスター?
 よくあんな遠隔地に分身を飛ばせたわね。
 ちょーっと興味があるかなーって」

/////////////////
■~今回のNG~

ねこ 「どこまで書いたっけ~(汗)」
凛  「……ガントーッ!」
桜  「クスクス……」
士郎 「無限の剣製!」
ねこ 「にゃーッ」
監督 「再開するにしても、もう少し盛り上がる
    場所からにして欲しいものだ……」

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ひな祭り 期間限定広告の裏

「そういえば、そろそろ桃の節句だな」
TVを観ていた先輩がボソッと呟く。

「桜ちゃんち、ひな人形飾らないのー?」
お煎餅片手に何気なく反応する藤村先生。
その言葉に胸が少し痛くなる。
先輩が気づいてバツが悪そうに振り向く。

「いえ、うちには雛人形は……ないのです。
 あまり女の行事には熱心ではなかったので」
作り笑いで何とか誤魔化そうとするけれど

「そうなの? 古風なお爺さんがいるのにー」
いよいよ返す言葉が見つからなくなる。
どうしようかと頭の中でオロオロしていると

「あ、いや、あるぞ、ひな人形」
先輩がトンデモ助け舟を出してくれる。
「え? 士郎の家(ここ)、ひな人形があるの?」
「あるある。藤ねえのが、さ」
クイッと土蔵を指し示す。
「え? そうだっけ……ぇ?」
頭の後ろに小さく「がおー」の文字が見える。
「毎年、藤ねえがいつまでも飾っておくもんだから、
 おじさん、窮してここに隠していったんだよ。
 そんなんだからいつまで経っても嫁の貰い手が――」

ああ、先輩~! それ以上は……
先生の後頭部に浮かぶ「がおー」が巨大化してます!

・・・・・・・そんなこんなで

「な、なんでさー!?」
クスクス、先輩の断末魔。
先輩のお部屋に、ジャーン♪ ひな壇出現。
藤村先生、私、姉さん、ライダー、それに先輩。
強行採決4対1で決定なのです☆

あれ? でもおかしいですよ、これ。
三人官女が、なんだかとても豪華……??

「ああ、それね。遠坂が持って来た人形なんだ。
 官女が見つからなかったんだけど、そしたら遠坂が、ね」
その先輩の向こうで、先生が超豪華官女人形に敗北中。

「遠坂の家には……ひな人形があったんだ」
記憶に無いひな人形……、複雑な気持ちになっていく。
そこに――
「覚えてないのも無理ないわね……」
甘酒を仕入れてきた姉さんがいた。
「あなたのいた最後の年の節句用にって、
 慌てて買い揃えたものなのよ」

姉さんは桜模様の打掛姿の官女を見つめながら続ける。
「結局間に合わなくて、今日まで出番なかったんだけどね……」

「……!!」
なんだろう、この気持ち。
胸につかえていたものが解け落ちていく。

【桃の節句、桜の節句――】

「さ、ライダーが来ないうちに、甘酒隠さないと、ねー」
姉さんは、わたしなんか気にしないフリをして
さっさと台所に向かおうとする。

「失敬ですねリン。今の発言は訂正して欲しいものです。
 酒、と付けばなんでもいいと節操無いように思われる」

「そう言いつつ……もう飲んでるしー」

「ああ――、しまった!? つい、この甘露な味わいに……」
ライダーも敗北宣言ですか。姉さん、やりますね……

先輩も、先生も、穏やかな笑みを浮かべている。
……あったかいな、ここは。
春はもう直ぐ──

『もういくつ寝ると、ひな祭り~♪』

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冬空に舞う桜花 30.5

=閑話休題=
■深夜のコンビニ

「お客さん、誰も来ないなぁ」
外は寒いけど、店内は暖房真っ盛りで
ほやほやと暖かい。おでんの匂いが
慣れるまでちょっと辛かったけど
今はなんとか大丈夫、かな?

店長はバックヤードで在庫の整理中?
お友達は裏で休憩中?
残ったわたしは一人店内でお留守番。

突然、シフトに欠員が出ちゃったので
初めての深夜勤。緊張してるのです。
だけど……お客さんが来ないので
お掃除がお仕事なのですよ。
雑誌コーナー前の床をゴシゴシ。
ここは汚れが激しいから大変なのだ。

  ♪ピンポンピンポン~

「は!」

お客さんかな?
扉が開いたチャイムの音。

コツコツと音をたてて店内を歩いてる。
冷凍庫の前で……立ち止まって、また歩き出す。
レジかな? サッと周りを見るけれど……あれれ?
誰もいなーい。もう出て行っちゃったの?

「…………????」
おかしいなぁ。
お外にも――人影はないし
お弁当の配達の人が来る時間でもないし。

でも……仄かにイイ匂いがする。
カモミールみたいな……野の花の匂い?

  ♪ピンポンピンポン~

「ええ!?」

まただ。誰もいないのに~。
何だか怖くなってレジのトコに帰る。
と――

あれ? 315円が置いてある。
「由紀香、どうしたン? 何そのお金?」
「あ、蒔寺にゃ~ん」
裏から出てきた楓ちゃんの姿を見て安心しちゃう。
「うん、実はね、
 透明人間さんがお買い物していったみたい」
「はぁ? なんだよそれ?」

  ♪ピンポンピンポン~

「わわ!? まただ」
と思ったら、今度は人間のお客さんでした。

「くっそーッ! なんでアイツなんだよッ!?
 爺も爺だ! 隠し事が他にもあるって
 事なんだよな!?
 くそぉッ! みんなして僕を……ッ!」
プンスカ怒りながらホットココアをお買い上げ。

そんな初深夜勤なのでした。
バイト代奮発してもらえそうだから
今度、気になってたあのお店に行ってみようかな。
氷室さんと、そうだ、遠坂さんも誘ってみよう。
最近、学園に来てないけど、何かあったのかな。
そんなことを考えながら、楓ちゃんと
お店を後にする。
ああ、今日も疲れたなぁ。ここのところ、寝ても
食べても疲れがとれない。花粉症なのかな……?

え? 未成年者の深夜勤はいけないんですか?
くすくす。表向きは未成年じゃありませんよ?
だから大丈夫なの、だ~♪

=?=
Fateの設定の不思議なところの一つに
『何かがある時』は人がいないんですよね。
衛宮邸近辺でも柳洞寺近辺でも交差点や公園も。
サーヴァント戦が行われる時は人がいなーい。
(な・の・に、影が徘徊する時は人がいるという)
何とも不思議ですよね~。ミステリアスー。
コンビニ配送も新聞配達もタクシーも
誰も通らない。それはそれで不気味(ブルブル
結界なのかも知れないけど、
不可視にするだけで、人間の存在を排除とか
出来るのかなー? 謎だ。
もしかすると、結界内に人が偶然入って来ちゃった
場合、結界の境界線を越えた瞬間、溶けるように
消されちゃうとか??
戦争なんだし、そういった意味のない殺戮って
結構起きていそうかも……TT
「隣のおじさん、夜、コンビニに行ったきり
 行方不明なんだって……。家出かしらー?」
みたいな。。。(>_<コワイ

士郎が聞いたら怒るだろうなぁ。

Fateの世界設定を読む限り、魔導を統括管理してる
時計塔は、人の生命や財産云々より、魔術の秘匿に
重きを置いてるみたいだから、四次聖杯戦の時
みたいに大量の犠牲者が出ようとも、情報開示や
救済より隠匿をメインにするんでしょうねぇ。
魔術師の犯罪阻止も唱ってるけど、臓硯や言峰の
犯罪行為を止められなかったんだから
機能不全を起こしてる、って見てOK?
凛が将来的に時計塔に入るのなら、その辺、
どうなのかなー。内紛の火種になりそう?
凛って口では怖いこと平気で言ってるけど
実際の行動は人を思いやってるトコ多いし^^

蛇足ですけど、
そう考えると……Fateにafterがあるとしたら
時計塔vs士郎って形になる場合もあるのかな。
思想的に両者相容れない感じですし。
そこへ教会も加わって、また三つ巴ですか。
冬木市民、また災難降ってきますyo

SS的には――
時計塔と反目する士郎。発端は桜の異能?
凛は両者の板挟みにペッチャンコ。
アーチャーは凛の守護っぽいから、
何かの弾みで再現出したら面白いかも☆
(弓凛復活~)
ならセイバーも復活させちゃえ!(マテ
そこへイリヤ2号機(オイオイ も現れて
さぁ大変。
収拾つかなくなってジ・エンド。。。
(´・ω・`)   
(´・ω:;.:...
(´:;....::;.:. :::;.. .....

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冬空に舞う桜花 30

■衛宮邸 居間会議場
居間に入る。
そこにはまだ充分な温かみが残っていた。
緊張から解放され凍え始めた体にはありがたい。
イリヤはいつもに場所に座ると、
一人で何かをハクハクと食べ始める。
「アイスクリーム? どうしたんだ、それ?」
我が家の冷蔵庫には氷菓子の類はない。
大食漢……もとい、大食淑女の大所帯を
数日間賄う為の貴重な食料で満杯。
そんな贅沢品を納めるスペースなど無いのだ。

「ライダーに買ってきてもらったの。
 問題あるかしら? お金も渡してあるわよ」

はいー? この非常時にサーヴァントを
パシリに使っているのかーっ!?
遠坂も呆れて物も言えない状態。
しかも、ライダーがコンビニでお買い物……?
あの格好で……?? あり得ないぞ、それ。

「いいじゃない、ついでなんだし。
 それに、魔力だってちゃんと提供してるから
 ギブアンドテイクになってるわよ」
ハーゲンデッツのバニラをウマウマツ~ンッと
頬張りながら、答えるイリヤ。

片や、遠坂もいつもの場所に座る。
俺は湯を沸かしてお茶を用意する。
いつものパターン。
だけど、この場に桜の姿がないのが……寂しいし、
もどかしいし……悔しさもひしひし募ってくる。

「さーて、話を聞かせてもらえるわよね」
熱々のお茶を前に頬杖ついて
詰問モードに入る遠坂。

ああ、またこのパターンだ。これで何度目だ?
さすがに今回、キャスターの行動に問題があったのは
否めないのだが……というか
この二人、息が合っていないと思うのだが
上手くやっていけるのか不安だぞ。

「無論です。話は多少長くなりますが――」

キャスターが言うには……
そもそもの発端は数ヶ月前に遡るという。

キャスターとして召喚され、初めて受けた命令が、
この冬木市の詳細なマナ分布の調査であったという。
キャスターの得意分野である要塞・陣地の構築には
必須のデータであると同時に、敵となる者の所在や
その動向を探る意味合いもある。

だが、その作業はキャスターの一身上の都合により
その時点では実を結ぶことはなかったが、
後に、柳洞寺に陣を張る際には、その知識が
大いに役立ったという。

聞けば、この冬木市自体魔力に関わる条件は抜群で
いくつもの地脈・霊脈が縦横に走っているという。
また、それらの交叉点上にはマナの溢れる
優れた場所があるとのことだ。
柳洞寺、教会、穂村原学園、公園、間桐邸、
遠坂邸、それに衛宮邸がその代表的な場所らしい。
アインツベルンの森が調査対象にならなかった
理由はキャスターには分からないという。

これら該当地の中で、
後日、気になる場所が見つかった。
それが間桐邸と遠坂邸、衛宮邸。
そして――件の教会であった。
これらに共通していた不可解な点とは
マナが豊富な場なのに、敷地内にマナの検知されぬ
意図的に遮断された空間があったことだという。

それぞれの邸宅は魔術師の物件であるから
外部から勝手に探査されぬよう
遮蔽が施されているのは分かる。
よって当該より排除。
だが、教会は別だ。

後日、教会の存在理由を遠坂から教えられた
キャスターは、疑問を大きくした。

聖杯戦争の監督官が詰めているとはいえ
多くの一般人も拠る神の家に
何故、マナの遮蔽された空間があるのか?
単に戦闘不能となったマスターを囲う為の
空間なのか? それとも――
その疑問の答えを得るべく
行動した結果が……アレだったわけだ。

時間を追う形で説明される。

一足速く、教会に飛んだキャスターは
まずは外より監視を始めた。
だが、まるで機を測ったかのように
そこに臓硯一派が現れる。

はじめ、言峰と臓硯は何か会話を交わしていただけ
だったが、そのうち戦闘へ発展していったという。
アサシンを相手に、言峰は互角以上の戦いを
展開したが、セイバーと影の出現により、
形勢は一転。
そこでキャスターがアサシン、臓硯に攻撃を仕掛け
乱戦に至り、そこへ俺たちが到着した、と。

あれ? ちょっと待てよ。何か引っかかる。
キャスターのマスターは葛木先生だったんだろ?
最初の命令がマナ調査って……
先生は魔導に通じていたのか?

と疑問が過ぎったが、遠坂はそのまま淡々と
キャスターの話を聞き入っている。
うん、取りあえず俺の疑問は――後回しだな。

/////////////////
■~今回のNG~

ハーゲンデッツのバニラをウマウマーツ~ンッと
頬張るイリヤ。

凛  「じとーーー」
イリヤ「……あげないわよ」
桜  「じとーーー」
イリヤ「……だからぁ」
桜・凛「じとーーー」
士郎 「……はいはい、わかったよ。俺が
    ひとっ走り行ってくればいいんだろ?」
監督 「じとーーー」
キャス「じとーーー」
士郎 「あのなーw」

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冬空に舞う桜花 29

■幕間 衛宮邸 客間
 ビキッ!
激しい衝撃。
幾重にも鋭い亀裂が走り
その水晶球は砕けかかる。

「う、くッ……ぅ」
衝撃で眼鏡を飛ばされた男が小さく呻き
よろよろと床に崩れた。
紅く染まっていた彼の瞳は、徐々にその色を失う。
「イッセイ――ッ!?」
「い、いや――大丈夫。心配はご無用……」
荒い息を堪えながら、
手を貸そうと詰め寄る女性を制する。
その女性もまた、額から一筋の血を流している。

「やはり……こういうこと、か……
 メトセラめ……小細工を」
そう罵るように言って、再び男の脇ににじり寄り、
癒しの手で応急的な介抱を行なう。

その横、辛うじて球体を保っている水晶には
今もなお、深夜の教会が映し出されていた。
その中心には、金髪の少年。
「しかし――この者は、いったい……」

男のダメージが一応の回復を見ると
女は再び水晶球に向き直す。
小さく手をかざすと、水晶はそれに応え
光の像を結び直す。

【映し出されたのは……空のベッド】

その映像を最期に、
水晶は乾いた音を立て崩れ落ちた……

■衛宮邸 玄関
「──ッ!?」

「足はついていましてよ?」

藤ねぇお気に入りの虎縞の絆創膏を
おでこに「ペンッ」と貼ったキャスターが
そんな事を言いながら立っていた。

顔を見合わせる俺と遠坂。
ドッと疲れを感じてしまうのは何故か……

「あーもうっ! いろいろ考えて大損したーっ!」
今度は遠坂がプンスカ怒り出す。

それをあの手この手で宥めながら、
そろりそろりと居間に向かった。

/////////////////
■~今回のNG~

辛うじて球体を保っている水晶球には
今もなお、深夜の教会が映し出されていた。
その映像の中心には――
麻婆丼大盛りの皿を手にした男。

キャス子「ウホッ、誰――この人w」

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番外編 バレンタインデー@桜 CG付き^^;

Sakura26b

今日は2月の14日。
待ちに待った日。
先輩は、学校帰りに
寄ったアルバイト先から
まだ帰ってこない。

先輩のことだから、きっと、チョコ、
たくさんもらってるんだろうなぁ。

姉さんはきっと、とっても高いチョコを
義理チョコだー! なんて言いながら
あげるんだろうなぁ。
きっとホワイトデー対策よね、アレ。
藤村先生はいつもと同じ、パラソルチョコかな?
美綴先輩もチョコを用意していたっけ。
チロルの10円チョコ……うふふ、かわいい。

わたしは、一週間前から準備した手作りチョコで
勝負なのです。
3回も失敗してしまったのは内緒。
熱の加減を間違えると風味が飛んでしまうの。
その温度を見つけるまでは失敗の連続。
う~ん。スィートのレシピも集めないとダメかな。

でもでも、最後に出来上がったのは、
自分で言うのもなんだけど、かなりイイ感じ。
柔らかい甘さと、ほんのりとした苦みが
上手くバランスとれたと思う。
あとは……先輩の口に合うかどうか。

きっと、先輩のことだから
どんなチョコでも「美味しい」って
言ってくれるんだろうなぁ。

――ドキン

先輩の笑顔が思い浮かんで
ちょっと胸が弾む。

こんなチョコレート一つで、こんなにもドキドキ
できるなんて、自分でも思いもしなかった。

バレンタインデーのことは、二年ほど前
藤村先生から教えてもらった。
あの頃はまだ、全然余裕なかったから、
こんなイベントがあるなんて知らなかった。
その時、来年は先輩にチョコレートをプレゼント
しようと、そう決めたけれど……。
次の年は兄さんに見つかってしまって
結局渡せず仕舞いで終わっちゃった。
その次の年は……あの戦いの真っ最中。
バレンタインデーなんて、すっかり忘れていた。
そしてようやく……

――あ

感覚に、コツンッと来るものがあった。
うん。――今、先輩が門の前に到着。
さっそく玄関に直行!

「おかえりなさい、先輩」
「ただいまー」

バッチグーなタイミング。
つくづく魔術って便利だなぁーと思ったり。

「先輩、収穫はどうでしたか?」
ちょっとイジワルな質問。
「え?」
案の定、?な表情の先輩。
うんうん、先輩らしくてOKなのです♪
「チョコレートですよ、バレンタインの」
「あ、ああ。6個、かな」
ほぉほぉ。それはイイ数字ですね、先輩。
バイト先でももらったのかな?
そんなお話ししながら、お茶の間に移動。

「こんな感じだな」
そう言って先輩は鞄の中からいろいろな
包み紙を取り出してみせる。

うーん。
チョコだけに、ちょこっと複雑な心境。
なんだか胸の奥でモヤモヤと。
これって……やきもちなのかなぁ。

――あれ?
その袋についた香りに……心当たりが。
先輩がそれを開けると……中身は
チョコレートボンボン。

はッ――!?

そういえば……ここのところ、
ライダーの様子が……。
時々、視界の共有を切っていたし。
それはこう言うことかー!

それならそうと言ってくれたらいいのに。
などと思いながら、一方で、心の中は
ドキドキでいっぱい。

「あの……先輩、これを!」
えいッ! と先輩に差し出す。
「あ、ありがと……桜」
大事そうに袋を受け取ってくれた感触が手に残る。
その感覚を忘れないようにしながら
そーっと瞼を開けると――

そこには……真っ赤になった先輩がいた。
双眸に浮かぶ光がかすかに揺れている。
先輩は照れ臭そうにしながら、
袋を開けて中身を取り出してくれた。

「あれ? 桜、これ……」

え? ああああああああ!?
「と、溶けて、る? そんなぁ」

「あ、炬燵の天板の上に置いてただろ?
 ここ、温かくなるからなぁ……」

ふぇぇぇぇぇ……!
ここ一番と言うところで……
姉さんのドジッ子が移っちゃったのかしらぁぁぁ。

でも――

「うんうん……これは――」
トロトロに溶けて崩れたチョコレートを
指を汚しながら口に運んでくれる先輩。

そして――感想

「うん。桜の味がする」

ッ!!

どうしてなんだろう。
それを聞いた瞬間、目頭が熱くなってきて
視界がユラユラと滲み始めて来ちゃった。

「お、おい。桜?」
動揺してくれる先輩が……とても愛おしい。

これがわたしのバレンタインデー。
一年に一度、
女の子が男の子にチョコレートを渡す日。
来年もバレンタインデーはきっと来る。
でも、今日というこの日は――もう二度と来ない。

だから……忘れないようにこの想いを
胸深くしっかり保存しておこう。

「大丈夫です。それじゃ、お夕飯の仕度しますね。
 直ぐ出来ますから待っていて下さい」
そう言って台所に向かう。
そしていつものように先輩が後ろから来て
わたしを手伝ってくれる。

それは――
いつもと変わりない日常。
わたしの『宝物』。

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冬空に舞う桜花 27

■教会前
戦場を後にした俺と遠坂は
教会前の無人の広場を駆け抜ける。
ここまでは伏撃も無く順調に来ている。
とはいえ警戒を解くにはいかない。

今は敗退に近い状況であり行動速度も重要。
もたもたしていたら、それこそ好餌食になる。
「こっちだ。公園の中の最短ルートを行こう」
「いいの? 臓硯が罠を張っているわよ、きっと」
相手は常に先手を打ってくる熟達した策士。
だが、悠長に遠回りしている時間がないのも事実。
それに――
「罠が完成する前に、突破してしまえばいい」
速度に関してはセイバーに学んだことが多い。
先んずれば機を制する、と。

■公園
橋を渡り公園の中を突き進む。
不可解なことに、
ここまで来ても臓硯の妨害は一切無かった。
攻撃を仕掛けられる好適地は、
いくつもあったというのに。

間もなくして、前方に、街灯に照らされた
公園の一角が見えてくる。
連想されるのは……雨、雨、雨。
そこには小さな想い出が待っている。
きっと、これからずっと、記憶の重要な一角を
成すであろう大切な……場所。

その時の――
抱きしめた肉体の柔らかさと、か細さと、
狂おしいまでの哀しさが、
否応なく思考を揺さぶりに来る。
胸を掻き毟りたくなるような衝動に駆られながら
更に道を進んでいく――

■十字路
ここに至るまで、往路も含め不気味なまでに
人気がない。まるで誰もいない世界に
紛れ込んでしまったような錯覚。

前を行く遠坂の背が何故だか愛しく感じる。
と同時に、切とした緊張感のせいか、
掌にむずむずとした、
こそばがゆさを感じてしまう。

「気が付いてる、士郎?」
「──ん? 何がだ?」
はて、と感覚にアクセスして、異常を
感じていないか再チェックをするが――
イレギュラーなものは特にない、が?

「やだ、異常無さ過ぎだと思わないの?」
む? 言われてみればその通りだ。
それなりの伏撃を想定していたものの
妨害のぼの字も受けなかったのは事実。

「誰か……援護してくれているみたい、ね」
「え、そうなのか?」
警戒対象を危険な動体に絞っていたとはいえ
俺には何にも違和感も無かったのだが、
遠坂によれば、ここまでの所々に
僅かではあるが戦闘痕があったという。

「もしや、アーチャーか?」
「ううん、それはないわ。
 アーチャーはもう家へ向かわせてる」
どうやら、金髪少年との悶着をさっさと終わらせ、
いつの間にか追いついていた模様。

「まさか……あの金髪少年、じゃないよな。
 キャスターは……有り得ない、し」
「…………」
言葉を失い沈黙が訪れる。

キャスターの戦闘に至る経緯は全く不明だし
あの直前、影を庇ったかのような不可解な行動など
分からないことはあまりに多い。
ただ、戦闘の結果、キャスターを失ってしまった
という、曲げようもない事実だけが残された。
ここに来て、再び犠牲者を出してしまった。
それは、俺たちが、再び大きな窮地に立たされる
事を意味している。と、同時に──

買い物の時の、食卓を囲んでいた時の、
葛木先生を悼んでいた時の――
キャスターの顔が、声が、思い起こされる。
一成がこの事を知ったら……どう思うのだろうか。
いや、それよりも……
いったい誰がこの悲報を伝えられるというのか……

■衛宮邸 外縁
ここまできて、ようやく自分のテリトリーに
近付いたという実感が湧いてくる。
「はぁはぁはぁ……俺の心肺、
 機能してんだろうな? くッそぉ」
往く時はこれほどまでに時間を感じなかった。
まるで体に錘がついているようだ。
復路は一秒一歩が……とても遠く感じる。
あと少し、もう少しだ。
桜は、イリヤは、他の皆は無事だろうか。
急く気持ちを抑え、警戒を怠らぬよう
気を引き締め、ラストスパート。

/////////////////
■~今回のNG~

桜は、イリヤは、他の皆は無事だろうか。
急く気持ちを抑え、警戒を怠らぬよう
気を引き締め、ラストスパート!

「いーしーやーきーいもー。おいも♪」

遠坂  「――ッ!」
士郎  「お、おい遠坂? おーい」
桜   「ライダー、お願い!」
ライダー「任せて下さい! ベルレホーン!」
士郎  「…………」

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冬空に舞う桜花 26

■教会 裏手
赤き背がそこにあった。
「出番をよこすのが遅すぎるな、リン」

何も携えていなかったその両の手に、
一振りずつの短剣が――現れる。

――ガチンッ

金属の音

それは何の音だったのか。
外からでなく、ましてやアーチャーからでもない。
自らのうちに響く音……

【ああ――、そういうこと、なのか】

アーチャーの干将莫耶が華麗に円を舞い
セイバー必殺の剣戟を手玉にとっていく。

一方、セイバー吶喊に呼応し
周囲に散っていた蟲も一斉に動き出す。
右から十五、左から七、後ろから十、
そして前方からは黒きセイバー。
普通に戦っては処理しきれぬであろう見事な連係。

「このぉッ! Ein、Zwie! Flitze――」
懐から取り出した宝石を両手に掴み、
それを蟲に投撃しようとする遠坂――

「リン、貴重な宝石、無駄遣いをせずに済みそうだぞ」
セイバーの二撃三撃を撃ち払いながら赤の男が言う。
「――えっ?」

俺の右手には──、干将。
それはまるで意思でも持つかのように螺旋を描く。
蟲どもは空中にあるうちに――全てを両断!

「士郎……あんた?」

パチンッ

「――リンッ! 下がれッ!!」
アーチャーの声に遠坂の驚きも掻き消される。
反射的に一歩下がった遠坂の直ぐ目の前を
見知らぬ銀刃がかすめ飛んでいく。

「我の所有物を手にかけるとは、許せぬ」

それはどういった攻撃なのか
無数の剣、槍、矛、矢、ありとあらゆる武具、
しかもその何れもが宝具級というそれが、
一斉に宙に放たれ鋼鉄の一線となって、
ある点に向かい飛翔していく。

目標は俺たちではなく、遥かに前方、
あの影をまとう怪物に向けて、であった。

だが、ヒラヒラと落ちてきた何かに
それら武具の突入は阻まれた。
「な――キャスター!?」
彼女に二度目の奇跡は訪れなった……
圧倒的な火力の前に蒼き衣のローブは四散し、
その姿は跡形もなく消え去った。
なぜキャスターが?
だが、疑問を問う暇も無い。

「チッ、こざかしい」

剣を構え、声のするほうを見やる。
そこには場違いとも思える人影が一つ。
金髪の少年が一人佇んでいる。
見た目は中学生程度の身の丈で痩せ型。
とても猛者には見えない。
だが、少年の放つ闘気は尋常でない。
絶望感さえ覚えるそれは、
おそらくセイバーやバーサーカーさえ
遥かに凌いでいるのではないか?

片手がスッと上がる。
と、宙に無数の武具が現れ始める。
先刻、投擲されたはずの特徴ある剣も、そこにある。
「魔術師……? いえ……サーヴァントッ!?」

遠坂の絶叫よりも、臓硯の反応は素早かった。
或いは、この謎のサーヴァントの存在を
予め知っていたのかもしれない。
セイバーを下げると、自身は影の陰に
身を潜ませ、其処彼処に口を開ける闇へと
後退していく。

少年の指先が微妙に揺れる。

が、次に動いたのはアーチャーだった。
大きく二歩進み、遠い影と少年の間に割って入る。
「卑賤の分際で邪魔立てをする気か」
「残念だが、アレを今、始末される訳には、
 いかないのでね」
その皮肉めいた台詞に、金髪の少年の顔が歪む。

「アーチャー! いったいどうする気──」
その遠坂の声を、
アーチャーはスッと出した左手で制する。

キャスターを失い、臓硯との対決も、
知らぬサーヴァントの出現により水入り状態。
これでは、この戦闘に多くを求めるどころか
むしろこちらの身が危うい。
それに――
俺たちがここにいる事を臓硯に知られた以上、
手薄となっている家を放置するわけにもいかない。

「そうね、わかったわ。ここは任せる。
 でも、決着をつける必要は無いわよ。
 時間稼ぎだけ、お願い!」
「ああ、承知している。
 倒すべき敵は何か、理解しているつもりだ」

「士郎、わたしたちはいったん退くわよ!」
そう言って特大ガントを退路上に残る蟲の群れに
撃ち込み血路を開く。
俺も遠坂に従うべく踵を返そうとしたとき――

「あの時、振り払ったつもりだったのだがな……」
俺と遠坂、そして――あの影の盾となり、
恐るべき謎のサーヴァントと対峙している
アーチャーは、何かそのようなことを呟いていた。

「アーチャー、おまえ……?」
「――衛宮士郎」
あいつは、俺を呼び止める。その背は、
強力無比な敵を見据え一歩も退く気配を見せない。

「適性のないおまえが負けられぬ戦いに臨むのだ。
 ならば、せめて想像の中で勝てるものを
 イメージしろ。
 違えるな。イメージするものは──常に最強だ」

そしてアーチャーは一つ息を吸い込むと
静かに、そしてとてつもなく深い言で、
詠唱を練り上げ始めた。

『I am the bone of my sword ――』

その言の葉は、
まるで砂に浸潤していく清水のように
胸に染み入ってきた。

と同時に、
膨大な魔力に圧され視界内の光像が歪み、
空気は一気に粘度を増して呼吸と運動を困難にする。

それで悟った。
アレは、アーチャーのアレは――
この世界とは全く理の違う、もう一つの世界を
創造しているのだ、と。

『――Unlimited Blade Works.』

俺は遠坂の後を追って走り出す。
その背後……
その一節を響き残し、
アーチャーと金髪の少年の姿は、
この世界から……消えた。

/////////////////
■~今回のNG~

凛 「このぉッ! Ein、Zwie! Flitze――」
懐から取り出した宝石を両手に掴み、
それを蟲に投撃しようとする遠坂!

凛 「鬼はー外ッ!」
臓硯「いだだだだだだだだ!」
凛 「福は内~☆ ポリポリ^^♪」
凛 「鬼はー外w」
士郎「痛ッてぇ! 俺もかーいっ!」
慎ニ「ヤッフー! イェーイ、タイムリー」
凛 「鬼はー外ッ!! うりゃーッ!」(ガント入り)
慎ニ「ギャーッ」
凛 「福は内~♪」

桜 「ポリポリポリポリポリポリ^^♪ おかわりー☆」
凛 「……もう無いわよ」
桜 「シクシク……」

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冬空に舞う桜花 25

■教会へ続く坂道
坂の上にある教会の方から、地を震わせるような
低い振動音が断続的に聞こえてくる。
教会に近付くに連れ、異様な感覚(プレッシャー)
と共に、それは確実に大きくなってくる。

「これ……戦闘、だよな」
「そうね。心当たりがあるとすれば――」
「――キャスターか」
ともかく、気配を抑えつつ出来うる限り急ぐ。

■教会
教会の正面方向には全く異常がない。

戦闘と思しきそれは、
教会の中庭から裏手、そして墓地と、
広範囲で起きているらしい。
建物の脇を通って裏手へ向かうと――

■教会 裏手
「うぇっぷ……何だ、この臭いはッ!?」
キャスターによる攻撃のためか、
教会奥、おそらく居住区画周辺から、
もうもうと土煙が上がっている。
そこから……猛烈な死臭、腐臭が
湧き上がっている。

そして土煙の切れ目――視界が開けたその先に
――戦場があった

「な、なんだアレは?
 なにがいったいどうなって……」

夜空に浮かぶキャスター目掛けて
影をまとう怪物が無数の鞭を繰り出しては
執拗なまでの攻撃を加えている。
だが、攻撃は距離をおくキャスターに届かない。
なのに――
影はいっこうにその無意味な攻撃を
止めようとはしない。それはあたかも、
駄々を捏ねる子供を見ているよう……

一方、地上に目を凝らすと
そこではアサシンと黒いセイバーが、
言峰と対峙しているではないか。
驚いたことに、ホームグランドといえ
言峰は二体のサーヴァントと渡り合っている。

そして、宙にあるキャスターは
影の攻撃を高度差で避けつつ地上の
アサシンに対し遠距離攻撃を仕掛けている。

三つ巴、もはや乱戦状態だ。

だがその何れの攻撃も、
決定力に大きく欠けている。

特にキャスターの攻撃は最もたるもので
アサシンが対サーヴァント戦を不得手と
しても、あの程度の攻撃では
ダメージなど与えようもない。

なのに……なぜ攻撃を続行しているのか?
仇敵ならば他に戦いようもあるはずなのに……

「遠坂、いったいこれはどうなっているんだ?」
「こっちの方が知りたいわよ。
 どうする? 綺礼を助ける?
 それともキャスターに加勢を――」

どうしたらいいか判断をし倦ねたのか
遠坂が意見を求めてくる。
だが、この一瞬の躊躇が危地を呼び込む。

「遠坂、危ないッ!」

全くの不意打ちだった。
遠坂の背に体当たりして、脇の花壇へ
自分と遠坂の体躯を吹っ飛ばす。

遠坂の立っていた位置に、
あの忌まわしい蟲が何匹も飛び込んでくる。

美しく咲きほこるシャクヤクの花壇を
滅茶苦茶にしながらゴロゴロと二回転。
左手が利かないせいで、崩れた体勢を
戻すのに、どうしてもワンテンポ遅れる。

だが、遠坂は一回転しながら、
器用に取り出した宝石を
その蟲の群に叩き付けた!

「Eine todlich flamme!」

直視不能なほどの強烈な炎が爆ぜる!
十数匹に及ぶ蟲の大半は、反応良く逃げおおせたが
それでも数匹が白熱の火炎によって瞬時に灼かれた。
それを見た他の蟲は跳躍を止め分散し
俺たちを半包囲する形に動いていく。
明らかにそれは、統制された動き。

「臓硯……! どこかに臓硯がいる!
 士郎、探して!」

言われるまでもない。
三回転目をしながらも周囲に気の網を張る。

四方からのノイズが多く臓硯の気配を特定できない。
というより、この四方に散っている気配が……
臓硯のそれじゃないのか?

「いた! 影の近くにいる!」
発見したのは遠坂。
見れば確かにそれらしき人影が見える。

「どうする? ここから狙撃するか?」
「待って……何か様子が変。アイツ笑ってる!?」

背筋にゾッとする感覚が走る。
影とは違う方向から……ああ、これは……

「気をつけろ遠坂ッ! セイバーだッ!」
「え――?」

神速
距離にして50mを一瞬で詰めてくる。
もう一度遠坂をぶっ飛ばす!

だが今度は間に合わない。
体の動きについてこれない動かぬ左腕は
セイバーの太刀筋の軌道上に残ってしまう。

ちいッ! 
ま、どのみち動かぬ物だ
失ってしまっても……

ザシッ!

鈍い音。
が、それは俺の肉体からではなく
目の前を掠め落ちてきた何かからだ。

「キャスター!?」
影の攻撃を振り切って急降下、
セイバーの初撃を身を挺して吸収する。

相当のダメージを受けたのか
キャスターはフラフラと上昇していく。

「まずい! あれじゃ影のいい標的に――え?」

あれほど執拗だった影の攻撃が
この刹那よりピタリと止んでいる!?

だが一方のセイバーは何事も無かったかのように
振り切った剣を軸に体位を入れ替え
身を翻して次の剣戟動作に入っていた。
まともに食らわずとも、それはすでに必殺の一撃。

しかし、その攻撃に危機感は感じない。
何故なら――

/////////////////
■~今回のNG~

士郎「遠坂、危ないッ!」

全くの不意打ちだった。
遠坂の背に体当たりして、脇の花壇へ
自分と遠坂の体躯を吹っ飛ばす。
美しく咲くシャクヤクの花壇を
滅茶苦茶にしながらゴロゴロと二回転。

凛 「ちょ、ちょっと、士郎ッ!
   ドサクサに紛れて何処触ってるの!?」
士郎「え!? なに?(モミモミ)うは☆
   あ、いや、これは……事故……♪」

影 「ゴゴゴゴゴゴゴ……」
凛・士郎
  「ニャ~ッ!!」
ライダー「プッ(苦笑)」

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冬空に舞う桜花 24

■冬木大橋 左岸側
「遠坂、この前、言っていたよな?
 間桐と遠坂とアインツベルンの御三家で
 聖杯システムを作り上げたんだって。
 しかも、臓硯はその時の生き残りだって
 いうじゃないか。
 だとしたら、間桐臓硯は――
 聖杯戦争やサーヴァントのことを熟知して
 いるんじゃないのか? 遠坂よりもさ。
 なら、きっと強敵であるはずのサーヴァントに
 100%完璧に対抗する術を編み出していても
 不思議じゃないだろ?」

「――え?」

「その臓硯が、自分のサーヴァント、アサシンより
 桜に固執する理由ってのが見えてこないんだよ。
 その固執だって、方向性がおかしいじゃないか。
 単純に考えるならサーヴァントを強化するとか、
 作戦を練るとか、そうした方が得策だろ――って」

あれ? 遠坂どこだー?

え?のあと、視界からブッツン消えたと思ったら
ずーっと後ろのほうで立ち止っている遠坂発見。
お、おいおい、おいおいおいおい……
まだ教会までちょっとあるのに一時停止か!?

「それで……桜を……? ならサーヴァントは……
 え? でも……だとしたら……」

急ブレーキをかけて反転、遠坂のもとへ。
ブツブツ何か独り言の遠坂は
いつもの、顎に手をかけ「むぅ」と考えるポーズ。

「思い違いをしていた、って事か。
 この戦い、サーヴァントは戦力として
 額面通りには……ぁあっ!?」

今度は、あちゃーという顔。

「ちょっと……待って。まさか、
 キャスターが言っていた事って……
 士郎が要って……こう言う、こと?」

「ん? 俺がどうしたって?
 キャスターが何か言っていたのか?」

難しい顔をして溜息一つ。
「いいえ、こっちの話。
 ――まさに瓢箪から駒、ってとこかしらッ!」
などと、なんだか勝手にご納得の様子。

「言っておくけど――
 あんたも勘違いをしている」
そして返す刀でザクッと俺を一撃。
桜の受けてきた仕打ちについて
分かっていることが一つあると、そう言った。
「ただそれは……わたしの口からは言えない」
女である自分からは、俺に言えない、と。

目一杯含みを持たされたその言に
目眩を覚える。
それは――どういうことか。
胸の何処かで薄々気付いていたことが
一気に膨らんで平常心を圧迫していく。

「と・に・か・く――」
ふんっと背を逸らした遠坂は
語意を上げて鬱憤を晴らすかのように
言い放つ。

「あんたが、この先も桜といたいと
 ――そう決意したんだから、
 ――それがあんたの夢なんだから、
 そのための責任くらいは全うしなさい」

そう言って俺の胸にドンッとワンパンチ。

「もしここで桜を奪い返されたり、
 臓硯に支配されたりなんかしたら――
 もしそうなってしまえば、桜は命果てるまで
 臓硯に良いように利用され、
 用済みとなれば……あとはゴミのように
 打ち捨てられるだけでしょ」

「それじゃ、こっちも朝の目覚めが悪いし
 ご飯だってきっと美味しくない」

そして、風に揺らぐ髪を一振りしてニヤリと笑う。

「あんな爺(ロートル)の枯れた夢なんかに
 わざわざ桜を付き合わせてやるほど
 こっちはお人好しじゃないってトコ、
 見せてやらなくちゃね」

橋を照らすオレンジがかったナトリウム燈に
浮かび上がる遠坂のシルエットは
この上もなく力強く、そして――美しかった。

「疑問についての話とやらはひとまずこれでいい?
 そろそろ時間的にヤバイわよ?」

「ああ、そうだった。
 教会まであと少し、急ごう!」

再び遠坂を先頭にダッシュ開始。

うん。遠坂が味方にいてくれて
これほど頼もしいものはないな。

責任をとれだの、容赦はしないだの
口では非情なことを言っているけど
結局、なんだかんだ心配してくれるし、
行動でも上手にそしてさりげなくサポートしてくれる。
場合によっては、それが命取りになりかねないが
アーチャーがいればきっと何とかしてくれるだろう。
そういえば……アーチャーも
口が悪いクセに、行動は甘いトコあるよな。
遠坂をかばったり、アドバイスをくれたり。
やはり、サーヴァントはマスターに近い奴が
呼ばれるのか、はたまた影響を受けるのか……

「なーにーよー? そのいやらしい笑い顔は?」

え? 俺か?
今……俺、笑っていたか?
顔の神経は……ああ、確かに緩んでいる。
……むぅ、否定できないかも。
しゃーない、居直るかー、と

「ああ、ちょっと可笑しかった。
 遠坂って、やっぱりイイ奴だなって、
 そう思ったら、自然とな。
 うん、遠坂のそういところが、好きだ」

「――ッ!?」

ビッターンと派手にこける遠坂

「っと、とと!? どうした遠坂? 敵襲か!?」

跳ね起きて「ふがーっ!」と怒る遠坂。

「ア、アンタねぇぇ~!
 どの面下げて、そんなことををををを」
「――? なんだ?
 イイ奴って言っちゃ……悪かったか?」
「そこじゃない! そ、その……
 その後の……こと、よ」
遠坂の顔はみるみる赤く染まっていく。

「あと? えーっと、好きって? ああ。
 俺、前から遠坂のこと、好きだったのかなって
 最近になって気が付いた。桜のこと好きになって
 その感情が、ああ、これは遠坂のと……ってね。
 まぁ、遠坂のは憧れっていうのか――え?」

「…………」

なぜ、そこでむくれるのか?
こめかみに、こう、血管の十字架が……

「アンタねぇ。もー呆れてものも言えないッ!
 もしそんなこと桜の前で言ったら――」

「言ったよ。そしたら……クスクス笑われた。
 俺らしいって、さ」

「…………ッ!?」
うぐっと言葉に詰まっている遠坂。
どうしたんだ? さっきまでの凛々しい
遠坂は何処へ行ってしまったというんだ?

「クスクス……? 笑ってる……?
 ねぇ……ちょっと待って。
 今のなんだか……アレよね……」

Rin02

ピンッピンッと音がしてきそうだ。
ああ、それはナントカの緒が切れる音だな。

「って、なんだよ!?
 女の子に好きだったって言っちゃいけないのか?
 誉め言葉とかにならないのか、それって?」

「……あ、ヤバ、あたしマジ血圧上がってきた。
 今のって……『女』として聞き捨てしちゃ
 いけないことなんじゃ、ないのかな?
 ――そうよね? ね?」

などと怪しげな言い回しをする
遠坂の魔術刻印がうっすらと光を帯びる。
きっとこの場面を漫画のコマに例えたのなら
遠坂の背後には「ゴゴゴゴ……」って
書き文字が入るよな。うん。ってそれどころじゃ!
臓硯と戦う前に、俺はここで――

「ま、待て、落ち着け遠坂」
「ねえ、衛宮君。いっぺん死んでみる――?」

あああああああ、なんだか
道場で藤ねぇとイリヤがおいでおいで
しているような映像が走馬燈にぃぃ……

ズシーンッ!

「ッ!!」

衝撃が体を貫く。
うう、衛宮士郎はここで終わるの、か。

「ちょ、わたしじゃないわよ!?
 まさか……教会!?」

その通り。俺の体に異変はない。
この断続的な振動は――間違いなく坂の上の
教会あたりからだ!

「士郎!」
「ああ、どうやら教会で何か起きているようだ。
 急ごう!」

お互い、こういうときの切替は早い。
遠坂は俺の左前方について駆け出す。
左腕の利かない俺を配慮してくれているのだ。
自然と、後ろを行く俺は遠坂を援護する形になる。
別にこうすると事前に決めたわけなじゃない。
そう。これが――俺たちのチームプレイ。

/////////////////
■~今回のNG~

遠坂「ねえ、衛宮君。
   いっぺん死んでみる――?」
     バキューン
士郎「ギャー」
監督「チームプレイとやらはどうした?」
一成「……南無」

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冬空に舞う桜花 23

■冬木大橋 左岸側
「桜からも少しは話を聞いているし
 今の話でも――桜の過去(こと)、
 ほんの少しは見えてきたつもりだ。
 だけど、それを踏まえた上で――
 俺には臓硯のやりたいことが、
 見えてこないんだ」

「はぁ? 今度は臓硯?」

「敵を知り己を知れば百戦危うからず
 って言うじゃないか。味方に関しては
 遠坂に任せていれば安心だろうから
 相手、臓硯について、いろいろと
 考えてみるんだけど――」

「臓硯のやりたいこと──って決まってるでしょ。
 望みを叶えるために聖杯を手に入れる。
 それじゃ答えとして何か不足なわけ?」

「いや、そこは理解できる。
 気になっているのは、その前の段階なんだ。
 勝つための方法、手段って言うのか……」

遠坂に言う前に、今一度、頭の中で
ザッと思考を巡らせてみるが、いつものように
答えは出てこない。

「聖杯戦争に勝つために桜を強くする、鍛える、
 というのなら合点もいく。
 間桐の術式に合うよう手を加えるのも分かる。
 だけど、そこになんで虐待が入って来るんだ?」

「…………」
遠坂は――何も言わなかった。
一転して険しい表情をし
遠く先の一点を見つめているだけ。

俺は何か勘違いでもしているのか?
遠坂のその反応に不安になるが、そのまま続ける。

「間違ったこと言ってたら訂正してくれよ?
 で、続きだけど──
 虐待は、なんの役に立つっていうんだ?
 それとも……仕打ちだとか臓硯の趣味嗜好
 ってだけなのか?」

「ふーん。
 ……士郎、ずいぶんと桜の過去に
 こだわるようになったのね……
 ま、わからないわけじゃないけれど」

「ああ。正直、かなり頭に来てる。
 ……だけど、それだけじゃないんだ。
 前から妙に引っかかっている問題が
 その先にあるんだよ」

「へぇ~。で、それは何よ?」
あまり興味なさそーなお返事。
うーん、走りながらじゃ、こっちの考えも
いまいち纏まっていないな……
ワンダフルちんぷんかんぷん状態、だ。
こういう話はアレだ、家に帰ってから
じゃないとダメだな……うん。

/////////////////
■~今回のNG~

ねこ「見て見て♪ ノートPC買ったー☆」
監督「ふむ。で、SSはどうした」
ねこ「えっとね、うんとね、FEPがね」
監督「新しいPCにうつつを抜かしていたのか」
ねこ「あぅ、だって……ほら、でも中古だし」
監督「アンリ=マユ行くか。ん?」
ねこ「ニ゙ャー」
キャス子「猫鍋一丁上がり♪」
桜 (´・ω・`) ・・・

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冬空に舞う桜花 22

■幕間 桜の部屋
「ライダー、先輩のこと、お願い」
「承知しています。 ですが……
 私はむしろ貴女の方が心配です」

いつもならスッと消えるライダーが
今日に限って言葉を置いていこうとする。

「ライダー? 最近、少し口数が増えてきた?」
「はい? ……そう、でしょうか」
はたと考える仕草。

「うん。初めの頃に比べるとね
 なんだか……明るくなってきたように感じる」
「…………」
ほんのりと彼女の頬が朱くなる。
同じ女でないと分からないくらい微妙な変化。
「やっぱり、先輩の影響、なのかな?
 ふふ、やっぱりライダーも
 先輩のこと、気になるの?」

どこか自傷気味た笑みが
スッと自分を横切っていくのがわかる。
こういう時の自分は……好きじゃない……

「確かにシロウは興味深い人間ではありますが、
 その、そもそも彼は貴女の……」

【クスクスクス……】

そんな自分が好きじゃないのに……
笑みがどこかからか零れてしまう。
どうして、なんだろう……

「……もし、私に変化が現れたのなら
 恐らくそれは……サクラからの影響でしょう」

Sakura23c

「――え?」

その言葉にちょっと胸を叩かれた感じで、
なんだかぼんやりしていた自分から
パッと目覚める。

「そういうこと、です」

柔らかく口元を緩めて――
「では行きます」
そう言って胸を張り、ライダーは姿を消した。

私の……変化?
思えば……自分でも随分変わったと思う。
ううん、本質は何も変わっていない。
している事も――、されている事も――、
殆ど変わってなんかいない。
ただ、表面が少し代わっていっただけ。
忘れられない過去の自分を
何処かに切り捨てて、その軽くなった分、
新しく作ったもう一つの自分を
上から被せただけ。
――そんな感じ。
これが……今の私が……
本当の自分なのだろうか?

【本当の自分は……もっと残酷で
 奇怪なモノなのではないのか?】

嫌な思考がギュッと頭を過ぎる。

でも……そんな私でも……ライダーは
変わったって言ってくれるの?
……少し……うれしいかも。

「ふ、あ…………ぁ」
呼吸が熱を帯び、意識がぼやけてくる。
「少し……休まないと……いけない、かな」

モソモソとベッドに潜り込む。
これから一刻は、蟲との……闘い。
己との……闘い。

/////////////////
■~今回のNG~

柔らかく口元を緩めて――
「では行きます」
そう言って胸を張り、ライダーは姿を消した。

チリンチリーン♪

桜 「はわっ♪ 自転車で、GOー☆」
監督「……今のベル、編集で削れるか?」
録音「いえ……被ってます」
監督「NG。ライダー呼び戻してこーい」
助監「あーい」
桜 「あらら(汗)」

久しぶりにCGしてみたー^^
桜描いて和んでみる☆
相変わらず質は低いですがw

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冬空に舞う桜花 21

■冬木大橋 橋梁上の歩道
「なぁ。もし……
 遠坂が桜の立場だったら――どうする」
ふと思い付いた事が口をついて出てしまった。

「何よ、藪から棒に!?」
おぅあー、言葉尻に攻撃力を感じるぞ。
こりゃ愚問だったと後悔。

「あー、いや、ふとそう思っただけだ。
 すまん、他意はない。聞き流してくれ」

だが――遠坂はジロリとこちらを一瞥。
「どうするも何も、分からないわよ。
 だってわたし――桜じゃないもの!」

そして、俺の、困ったー!って顔を確認して
ニヤッと笑みを返して続ける。

「って――それじゃ答えになっていないわね。
 そうね。桜の身になって分析して見ろ、
 と言うのなら――それは無理だし無意味。
 そもそも、前提となる仮定からして
 あり得ないもの」

「そう、なのか?」

「ええ。そうね……段階を踏んでいくわ。
 まず――
 もしも間桐の家に養子として行ったのが
 桜でなく、わたしだったとしたら――
 きっと今ごろ、わたし、ここにはいないわよ?
 ブチ切れてこの辺一帯、冬木市民を巻き添えに
 間桐の修練場ごと木っ端微塵にしたか、
 さもなくば――誰にもそうと悟られずに
 自決しているか……そのどちらか、ね」

「じ――、自決? それって自殺、のことか?」

「ええ、そうよ。
 どちらにしてもわたしは、ここにいない。
 だから、あんたの問いに於ける前提条件、
 桜の身に――
 っていう仮定は、まず成り立たない」

そして少し抑揚を下げ、独り言のように続ける。
「わたしだって、純粋に魔術の鍛錬をすると、
 そういうのなら、どんなに厳しくても
 乗り越えられる自信はあるし覚悟だってある。
 だけど……間桐のそれは、
 あの子が受け入れ続けてきたそれは――
 修練なんてとても言えないシロモノ。
 たかが間桐の魔術と引き替えに
 毎日、毎日、人間(ひと)であることを
 捨てさせられる。
 おまけに……その修練だって
 半分は臓硯の嗜好を満足させるだめの
 拷問だの、虐待だの……?
 そんな修練(こと)まっぴら御免願い下げ。
 例え命を擲ってでも自分の尊厳は守る」

そして更に抑揚を下げて続ける。
まるで――何かに問い掛けるかのように――

「でも……あの子は違った。
 例え人として破壊されたとしても
 それでも生きると、生きていこうと、
 そう願っていたのよね。
 だから……どんな辛い目にあっても
 結局は自決を選択しなかったし
 きっと……出来なかったんだと思う。
 そして、恐らくは――」

ギリリと歯を鳴らし、低く呻く
「臓硯もそう仕向けていたはず。
 自決なんかされて10年間の準備期間を
 無駄にはされたくないでしょうから。
 だから、あらゆる手段を講じて、
 桜を戒めているんだと……思う」
言葉をそこでいったん切って
顎を上げ手前を向き直す。

「わたしには、到底選択し得ない決断で、
 納得もできない境遇……大したもよのね」

そう言って仰ぎ見た夜空に
遠坂は何を見ているのか……

だが、今の、戒めという話、
何か胸に引っかかる感じがする……

「今の戒めって話、それだと
 桜は体や神経だけじゃなく、
 心、というか、精神も操られていると?」

「それは心配しないでも大丈夫そう、かな。
 今の桜を診る限り――
 蟲による影響こそ受けているけど
 魔術や薬物を行使した洗脳はされてないし
 記憶操作の痕跡も見られない。
 何か理由があって洗脳しなかったのか
 出来なかったのか、それはわからない。
 今の桜は、普通と言える範疇の
 精神回路は維持しているわ」

その言葉に多少の落ち着きを取り戻す。
もし今の桜が、臓硯に操られている結果だと
したら、俺は本当の桜を知らずに過ごしてきた
ことになってしまう。
それは――未来の行方、
その根幹に関わることだ。

「ただ……そこから先が腑に落ちないの」

安定を取り戻そうとした直後の
否定めいた言葉に、ドキリとさせられる。
「――なんでさ?」

「だって、壮絶な過去を記憶に抱えたまま
 普通の思考を維持できると思う?」

「…………」
言葉もない。
人によっては過去のちょっとした出来事さえ
トラウマになるというのに、
桜のそれは、不幸などと一言で済まされる
どころのレベルでは、ない。
なのに……桜は一見したところ
普通の女の子とそれほど変わりはない。
洗脳されていないとしたら
……それはいったい?

だが……俺の知っている桜に
該当する姿があった。
そう。
俺が初めてあったときの桜……

その事に対して遠坂は言う。
「知ってるわ。離れていたとはいえ
 わたしだって、あの子のこと、子供の頃から
 ずっと見てきたもの……」

「あの子が士郎と出会って、明るさを取り戻して
 きたのも知ってる。気付いたのは最近だけど。
 でも、その頃の桜って、まだ臓硯の手中に
 あったのよ? もし、この戦いに桜を
 使うのであれば、ずっと以前の、
 人形のような桜の方が扱いやすいはず。
 なのに、臓硯は変化していく桜を――
 放置していた。ね、おかしいでしょ?」

「……むぅ」

確かに遠坂の言う通りだ。
普通に意志を持った人間を操るのと
自由意志を持たない人形を操るのでは
難易度が格段に違うであろう事は
想像に容易い。

「だが現実に……今の桜がいる、か」

「そういうこと。
 或いは……そこに臓硯の企みがあるのかもね」

たった一つの小さな世迷い言から
思わぬ話の流れとなった……

【俺は未だ、桜の多くを……知らない】

「で、衛宮君。どーなの?
 わたしばかりがお喋りしてたけど
 あんたのおバカな疑問は解決できたのかしら?」

横に並んだ遠坂からグサッと一撃。
そこで、グサッとついでに、もう一つの疑問を
遠坂にぶつけてみることに、した。

/////////////////
■~今回のNG~

凛 「はぁはぁ……台詞、長すぎ」
士郎「走りながらじゃキツイぜ」
    プップッー!
桜 「先輩~、ガンバです♪
   教会で待ってますね~」
アーチャー
  「遅れるなよ、凛」
    ブゥーーン!
凛 「……くっそー、タクシー組は
   楽チンで良いわねー」
士郎「まったく、同感だ」

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冬空に舞う桜花 20

■冬木大橋 橋梁上の歩道
未明、新都方面へ向け遠坂と共に駆ける。
橋上を渡る風は刺すほどに冷たい。

「なんでまたこんな時間に教会なんだよ。
 しかもタイミングが悪すぎだ」

夕食の片付けが終わり一息ついて
皆が部屋に戻り始めた頃を見計らい
俺は、桜と話をするため部屋を訪ねた。
昼間のキャスターの件で、誤解でもあれば
解消しておこうと、そう思ったからだ。

が――それはただのこじつけで
本音は……桜と話をしていたかったからだ。
臓硯との決戦まではもうそう遠くないだろう。
それまでの短い時間、桜との時間を
大切にしたかった。

ノックをしてから3分ほど待たされて
ようやく中へ通される。

桜は……少し熱があるのか、
しっとり汗ばんだ頬を
ほんのり桜色に染めていた。

夕刻、ライダーにも言ったが
桜とはコミニュケーションが不足している。
だが――桜の具合が悪いのなら
その対処のほうが優先されて当然。

冷蔵庫に冷やしておいた滋養強壮剤を
桜に飲ませ、しばらく手を握って様子を見る。
体調不具合の原因はだいたい分かっている。
だが、現段階で根治させる手段がないのだ。
もし他に出来ることがあるとすれば……
それは桜を抱くことくらいしか、ない。

それでも桜は――
「こんなの何ともありません。
 まだ大丈夫ですよ、先輩♪」
と言って優しく微笑み、手を握り返してくれる。

「そっか……」
別に何をしているわけではない。
ただそれだけの……幸せな時間。

そこへ――

「エミヤシロウ、30分後をめどに、教会へ」
ノックも無しに突如入って来たのはキャスター。
わざわざ桜の部屋にまで押しかけてきて
それだけ言い残し消え去ったのだ。

その瞬間、
桜の握り返していた手の力が、一際強くなる。
行かないで欲しい、そう告げるかのように。

無理もない。

夜、家を出るということは、この上もなく危険。
家を出るほうと、家に残るほうで、戦力は二分。
こちらから動くのだから、相手はそれを見て
弱い方を一方的に責めることができる。
故に、護りに徹している俺たちにとって
自分から動くということはかなりのリスクを
背負うことになる。
それがわからないキャスターではないだろうが
説明が無かった以上、不安は強く残っている。

だから、この桜の反応も自然なことと言える。

その後、遠坂までもがやって来て、
教会へ行くかどうか喧々囂々と論議を交わし
結局、取り敢えずは教会に向かおうと、
そういうことになったのだ。
渋る桜をなんとか説得し、
家を飛び出たのが指定時刻の5分前。
魔力で筋力と心肺能力を高め、
飛ばしに飛ばしてようやく橋まで来たのだが、
もはや遅刻寸前である。

アーチャーは霊体化して同行している。
だからこの場所を走っているのは、
俺の他には遠坂だけ。

「急いで士郎! おいてくわよ!」

呼吸を乱すことなく突っ走る遠坂。
対して、こっちは違う意味で――
心臓がバクバク言っている

別に走るのは構わないのだが……
その、俺の目の前を走るのは止めてくれぃ。
遠坂も、ライダーと同じで
スカートがチラチラと、その、なんだ、
俺の心肺が、心配になりそうなんだ。

遠坂凛
名門遠坂家の跡取り
高校生にして既に魔術師
そして――間桐桜の、実の姉

性格も言動も容姿もまるで似通っていない。
桜とは慎二を通じて知り合い
遠坂とは……まぁ、個人的なアレで
それとなく知っていた訳なのだが
そうと知らされるまで二人が姉妹
だなんて事、想像だにしていなかった。

だが、今は……
遠坂凛と間桐桜が姉妹であることに
なんの不自然さも感じていない。
むしろ、この二人が姉妹であったこと、
その事を、神か誰かに感謝しているくらいだ。

そんな姉妹が――
こうも別次元の人生を歩むことになったのは
いかなる運命の星の導きなのか。

「なぁ。
 もし、遠坂が桜の立場だったらどうする?」
ふと思い付いた事が口をついて出てしまった。

/////////////////
■~今回のNG~

だが、今は……
遠坂凛と間桐桜が姉妹丼であることに
なんの不自然さも感じていない。

遠坂「──ッ!」
士郎「?」
遠坂「衛宮君、今、なんて言ったのかしら~?」
士郎「え? 俺、何か台詞間違えたか?」
監督「……ふッ、それがお前の願望、か」
遠坂「ふふふふふ、衛宮くーん、
   いっぺん、泳いでみるー?」
士郎「ま、待て! ギャー」
    ザッブーン!
一成「南無」

台詞が長い~
というか改行が難しいですyo
ブログで書き物って……ねこには無理?
てか、寒くて手がかじかむので
絵が描けませーん。
なのでここ最近ヘタ絵が載せられにゃい。

走ってる凛なんて格好いいだろうに。。。

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冬空に舞う桜花 19

■衛宮邸 玄関前
「では、直接聞いてきましょう」

消えようとするライダーを慌てて呼び止める。
「何か?」
髪をフワリと振り、
クールな仕草で振り返るライダーを見て
つい、頬の筋肉を緩ましてしまう。

「何か……邪(よこしま)な面持ちですね……」
う、鋭い。
もうここまで来たら単刀直入に言うしかない。
やはり俺にはこういう回りくどい芸当は無理だよ。

「実はな、今晩の夕食なんだけど――
ライダーの分もあるから必ず来てくれってさ」

「はい――?」
素っ頓狂な声を上げるライダー

「私は食事を摂る必要など……」
と、退避行動を見せるライダー。
だが……逃げられてはいけない。
そうなったら、桜にお小言を頂くメンツに
俺までもが加えられてしまう……

「必要あるんだよ。
 桜のことを考えると、ほんの僅かでもいい。
 ライダーにはなるべく魔力を消費させたくないんだ。
 セイバーは食事が役に立っていたし、それなら
 ライダーにも当てはまると思ってね」

などと、真っ当っぽいことを言い連ねてみる。
ライダーは呆気にとられてはいたが
それでも『食事なんて要らない』という
態度をなかなか崩そうとしない。
だが、そこへ――

「先輩。ライダー、夕飯ですよー」
と、絶妙なタイミングでお呼びが掛かる。
俺がライダーを拘束して、桜が止めの一撃。

「ナイスだ桜♪」
――と心の中でサムアップ。

何を差し置いてもマスターの命令だ。
これではライダーも背けまい。

「な……サクラまで、いったい???」

むむ、もう一押しか? よし。

「ライダー。日本には『同じ釜の飯を食った仲』
 っていう形容があってだな――」

「…………」
はいー?とまた一段と混乱を加速させるライダー。

「食事を共にしてきた仲間、って意味なんだけど
 要するに仲間の信頼関係を築くには、食事という場も
 大事なんだ、ってことなんだよ」

「……信頼、ですか」
──おっと、良好な反応♪

「そうそう。俺と桜だってそうだったんだ。
 こう、一緒に食事をしてきて、今の関係が築けた
 っていうのかな」

「……なるほど」
よし、イイ感じだ。
着いて来いよ、背中で言うように
ライダーの横をすり抜け、玄関へと向かう。

実は、今日の夕飯には
ちょっとした仕掛けがあったのだ。

■茶の間 及び一部縁側(俺)
「これは……ファケ……ス……?」

桜が自信を持って作り上げた夕飯の数々。
もしもこの場に藤ねぇがいたら、
さぞや大喜びしたであろう。
その中で、ライダーが一際強く関心を示したのが
素朴な豆のスープであった。
買い物に出かける寸前、桜からリクエストされて
わざわざ乾物屋で仕入れた『ひよこ豆』と
オリーブオイルで作る塩味のシンプルスープだ。
なんでも『ライダーなら絶対気に入るはず!』
と桜一押しの料理。
俺も手伝いたかったのだが
キャスターの件で……がっくり。
だけど作り方は俺直伝。

驚いたことに……あのキャスターも
ライダーと同じ反応を返してきていた。

実は、キャスターがこのスープ皿を
受け取るとき、桜はあまり良い表情をしなかった。
だが……

「……美味しい」

そのキャスターの一言が、桜の態度を軟化させた。
おかげで、豆スープはライダーとキャスターの
連続おかわり攻撃によって一瞬ですっ空かん。
遠坂も俺も、後日までお預けになってしまった……

俺はライダーもキャスターも
正体は知らないが、もしかしたら
ギリシャに縁のある英雄なのかも知れない。
なぜなら……あの豆スープは
ギリシア風料理なのだから。

そんなこんなで
夕食は見事桜に軍配が上がり
俺の株は見事に暴落中な今日この頃だ……

なお、ライダーと記憶を共有している桜は
当然、彼女の正体を知っているであろう
ことは想像に難くない?

/////////////////
■~今回のNG~

『ひよこ豆』とオリーブオイルで作る
塩味のシンプルスープだ。
なんでも『ライダーなら絶対気に入るはず!』
と桜一押しの料理。

驚いたことに……キャスターも
ライダーと同じ反応を返してきていた。

バーサーカー
「■■■■ーー■ーーー■■ーーッ!」

一同「うわーーーーーーーーーッ!?」

大道具「あああああ、セットがぁぁ!」
監督 「ふむ、バーサーカーも同じ反応か」
士郎 「床が抜けてる……」
凛  「で、アレ、なんて言ってるの?」
イリヤ「んーと……『
まいうー』だって」
凛  「……でぶや、かーい!」
桜  「うふふふ☆
おかわりまだたくさんありますよー♪」

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冬空に舞う桜花 18

■衛宮邸 縁側

桜は台所、俺は……縁側。

夕食準備に向け、俺と桜の間で台所紛争が勃発。
結局、買い物帰宅後のキャスターと桜との口論が
なにやら尾を引いてしまう形となり、
桜の覚え宜しくない?俺は、台所に入ることを
やんわ~りと拒否されてしまったのだ。

そして何故か――
イリヤが、桜と仲良く台所に立っている。
俺がキャスターたちと買い物に出ているとき、
どうも二人の間に何かあった様子。
その二人の雰囲気はとても和やかに見えたので
俺は大人しく引き下がり台所を二人に引き渡した。

うん。何はともあれ、
仲良きことは良きことだ。

さて――

ライダーはどこにいるのか?
桜から、お呼びするようお達しが出ているので
探しているだが、これが簡単に見つからない。
何しろ相手は霊体化しているサーヴァント。
そう簡単に居場所が掴めるはずも、ない。
呼べば来てくれるかも知れないが……
なんだかそれじゃ『コトがコト』だけに
ライダーに申し訳ない。

「そういえば……昼間、
 アサシンの気配を感じたんだよな……」

その時のイメージを思い出してみる。

「う……ん」

今でも……
うっすらと背筋に感覚が残っている。

「やって――みるか」

集中……開始。
視点を三白に落とし
精神を集中という針の穴に通していく。

「……………」

水の流れ、大気の響き、
そういった見えぬモノが……感じられる。
ふむ。いけるか……な。
肩の力を抜いて……深呼吸一つ。

神経に魔力を流し頭の中に世界を構築する。
それは――天地創造に似た作業だ。
何もない大地に敷地を描き
そこに、この我が家が建てる。
小さな小さな自分だけの――世界。

ギヤを一段上げて感覚に鋭敏さを上乗せする。
投入する魔力の量は……多すぎても駄目、か。
もう少し抑えて……と。

家のイメージの中に……
像がぼんやりと見えてくる。

奥の部屋に――蒼い鏡?
ああ、これはキャスター、かな。
そのまま、すーっと流すように
東へと見当を持っていく――と

――紫色の旋(つむじ)

玄関のところ……これはもしや。

つっかけを履いて、庭に出て
そこからカラコロと玄関へと回る。

■衛宮邸 玄関前
「ライダー?」

「シロウ? ――何か?」

……図星。
門戸のところにライダーがフワッと現れる。

「……? まさか……私のいる場所を?」

コクリと頷く。
正直、自分でも驚いている。

「私は――アーチャーやアサシンほど
 気配遮断を確実には行えませんが
 それでも、それなりに気を断っていた。
 が……やや認識が甘かったようですね」

自分を戒めるようそう言い捨てる。

「あ、いや……俺は今、キャスターに感覚を
 強化されているから……な」

「……………」

俺の種明かしを聞いて、
ジッと俺を食い入るように見つめてくる。
全身を舐め回すような、そんな視圧。
考えてみれば、ライダーは魔眼持ちだぞ?
そんなに見つめられては……
全身がくすぐったいぞっ、と。

「それは――誤りです、シロウ。
 今の貴男には何も術は使われていない」

「……っえ!?」

一粒で二度ビックリ。

「そうなのか? 俺はてっきり……」

喉まで出てきた言葉を慌てて呑みこむ。
そうだ、本題はそこじゃなかった。

「いや、ちょっと動揺しちまった。すまん。
 実はだな……ライダーに用事があったんだ。
 その、桜から、なんだけど……」

さて、どう話を切り出したらいいのやら。
桜からの無理難題をどう解決したらいいのか。
あれこれ悩んでいると――

「……シロウ。サクラに関して、私からも
 述べておきたいことがあります」

先に切り込まれてしまう俺。

「桜に関して? それは――」

ライダーの態度が硬くなったように感じる。
これはきっと……怒ってるゾ。
心当たりがあるとしたら……あのこと、だろう。

「買い出しのこと、か」

その通り、と頷くライダーに弁解する。

「ああ、わかってる。
 今日のことは……うん、あとで夜にも
 桜と話をするつもりだったんだ」

ふむ、と考えるお得意の仕草。

桜とは
ここのところ目立って会話が増えてきている。
この一年半だって、相応に会話をしてきてはいるが
それは日常のなんともない四方山話がメインで
最近のような突っ込んだ話などしたこともなかった。

本当なら、お互いが好きとか告白しあって、
そこから時間をかけ理解をより深めていくのが
普通の流れだと思うのだが……
そもそも、俺たちにはそんな時間は
端から与えられてはいない。
おまけに俺も桜も、そして今置かれている状況も、
そのどれもが複雑なことこの上ないのだから
困り果ててしまう。

【もっと……桜と話を、していたい】

――そう。
会話を増やしても増やしても時間が足りないのだ。

そうして積もり積もった小さな歪みが、
今日みたいな形となって現れてしまったと
そう考えている。

解決する方法は……基本的なことだが
やっぱり『話し合う』時間を作るしかないと思う。

「そういうことでしたら
 ひとまず、私からの具申は取り下げましょう」

そう言ってライダーは俺に聞き耳を向ける。
今度は俺の番、と言うわけだ。
仕方がない。そのまま切り出すか……

「実は……桜がライダーを呼んでいるんだよ」

ライダーは小首傾げる。

「奇妙ですね。
 サクラから……そのようなことは……」
そう何かを探るような雰囲気で語るライダー。
マスターとサーヴァントは繋がっている。
だからきっと桜の意識を確認しようと?

「いや、違うんだ、ライダー。
 堅苦しい命令なんかじゃない。
 その、なんだ……」

「?」

/////////////////
■~今回のNG~

監督「遅かったな。何をしていた?」
ねこ「あぅあぅ、ごめんなさい」
監督「NGにもほどがある」
ねこ「やっぱりこれもNGですかニャー?」
監督「無論だ。罰としてアンリ=マユ」
ねこ「ギャー」

年が明けて初めてのSSですねぃ。
なんだか盛り上がりに欠けているるる~^^;
この後、夕御飯です。わっふ~☆
そして――今晩チョット何かが起こりますよ。
決戦は、この後、明々後日くらい?
今月中には最終回を載せたいところw

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冬空に舞う桜花 17

■マウント深山商店街
「そっち、まだ持てるか?」
「南無……これ以上は卵が危険この上なし」
一成と俺、もはや荷物でいっぱーい。
使用不能の左腕にも乾物の入ったレジ袋が
くくりつけられていて、えらく歩きにくい。

「次は鮮魚店に向かいましょう」
え、マジですか?
財布の紐は俺が握っているけど
買い物のイニシアティブはキャスターが握っている。
……俺の財布、出血死しそう。
キャスターが店の中で品定め中
荷物持ちで身動きの鈍い俺たちは店外で待ちぼうけ。

ボーっと青空を仰ぎ見ていると――
「今のおまえは何故だかいつもの衛宮らしく見えん」
「……ん? なんだ、藪から棒に」

何の冗談かと思って一成の顔を見るが
眼鏡の奥にあるその目は真剣そのものだった

「珍しくも、迷うておるのか?」
迷う……?
……そうだな。一成のその指摘は大当たりだ。
今の俺は……そう、大いに迷っている。

「そう、見えるか……」
うむ、と頷く一成から視線を遠い青空に移す。
考えるまでもない。
聖杯戦争の資格たるサーヴァントを失い、
満足に使える魔術も持たず戦う術すらないというのに、
桜を護る、皆を護る、などと正義の味方気取り。
これがどれほどお笑い種か、身に染みているところだ。

それに――
例えこの戦いで桜の身を救えたとしても
それで桜を本当に救ったことになるだろうか?
桜は『間桐』によって長く延々と踏み躙られてきた。
それは最早覆すことのできぬ過去(しんじつ)だ。
それを……どうやって救えと言うのか。

【これを救わずして救済といえるのか――】

もちろん、諦めたわけじゃない。
ただ……どうすればいいのか、
何をしていけばいいのか、それが見えてこない。

「……ああ、その目だ。
 まるで仮有なるものを探すかのような目。
 それでは見えるものも見えなくなるぞ。
 ……やはり、あの一年の、桜さんと申したか。
 彼女のことが……心を留めるのだな」

一成は、レジ袋からホット緑茶を二つ取り出し
その内一つを開けて俺に寄こし、そして続ける。

「では見方を変えてみてはどうか?」
一成は一口の緑茶で喉を潤まし――

「救われようとする者の側に立ってみるのだ。

 誰からも無視され、放たれ、空々寂々無念の中、
 ただ己の末路を、最期の訪れを待つのと――

 例え届かぬと分かっていても、
 それでもなお手を差し伸べてくれる者が
 目の前にいる――

 両者結果は同じであったとしても
 心の有り様は違うてくると思うのだが?」

「よいか衛宮。
 今のおまえは、まさにその手を伸ばす者だ。
 違えるな。救わんとする者が迷うてはならぬ。
 差し出した手がふらふらとしていては――
 救える者も救われぬと知れ……喝」

「一成……おまえ」
が、その驚愕は一瞬にして恐怖によって
塗り替えられる。

「――ッ!? 一成、気を付けろ……敵だ!」

猛烈な殺気。それは人のレベルではない。

「まさか……この時間、こんなところで!?」
正午間近な街は、買い物客も多い。
だが……アサシン、暗殺を得意とする
サーヴァントなら、この様な日時場所でも
人知れずに、殺し(それ)は可能かも知れない。

だと言うのに――
「ふふふ、ようやく撒き餌に食いつきましたか」
キャスターはコロコロと楽しそうに、しかも
おやつコロッケを頬張りながらやってきた。
そして少し大きめな声で――
「さて、どうしたものか。
 狙われて『はいそうですか』と討たれる者が
 何処にいるかしら?
 策なくして我等が陣を出るとお思いか?」

誰に向けて言い放ったものなのか、それを境に
殺気は嘘のように消えてなくなった。
首筋から冷や汗が背中へと流れていく。
もし、あの場で宝具でも使われたら
俺たちは……絶対助からなかっただろう。
だが、不思議と……余裕を感じていたのは
……気のせい、なのか。

「エミヤシロウ、なかなか『感』が鋭いですね。
 私の強化が役に立ちましたか?」

え――?

「アサシンの完全に遮断した気配を察するとは、
 例え優秀なサーヴァントであっても
 容易なことではなくてよ?  現に、
 私は今の殺気を読めませんでしたし。
 ……ふふ、見込みが通るなど、なんとも愉快」

キャスターはクスクスと笑いながら、
今度は、和菓子屋へと入って行こうとする。

「ま、待て、饅頭は止めろ――じゃなくて
 強化って……俺に、か?」
「ええ。ただ知覚能力を倍にしただけ。
 貴男の場合、能力の基数が大きいので
 効果覿面、といったところかしら?
 凛(あのコ)じゃないけれど、弄り甲斐が
 ある子ね、貴男……ふふふ♪」

思わず一成と顔を合わせてしまう。
一成、おまえ、キャスター(あんなの)に
毎晩弄られてて大丈夫、なのか?
「……煩悩退散……喝……」
一成の身口意修行は……
想像以上に厳しいようだ……南無。

■衛宮邸 居間
家に無事戻り、アサシンのアンブッシュ未遂が
あったことを遠坂に報告。

だが……
それを横で聞いていた桜が
突如キャスターに激昂。

キャスターは平然余裕と聞き流していたが
その場にいた俺と遠坂で、桜を宥めるのに
かなりの苦労を要してしまった。

俺の身を案じてくれたが故とは言え
これほど身の振りを乱す桜を見たのは……
初めてだった。

いや……或いは……
セイバーと口論したという、あの時も
こうであったのかも、知れない。

/////////////////
■~今回のNG~

一成「大判焼きの購入はシナリオにはないぞ?」
士郎「ああ、これ? これは桜にお土産だ」
監督「私物購入は自腹でな」
士郎「…………」
一成「監督のそれは?」
監督「無論、経費だ。食うか?」
一成「…………喝」

この時、キャスターが用意していた策、
妄想心音(ザバーニーヤ)対策は
後日火を噴きます♪
けど……そのシーンは割愛する予定w(マテ

ランサーの宝具「刺し穿つ死棘の槍」も
心臓直撃保証な必殺技みたいですね。
すごい技だ~☆
格闘ゲームで、こんなのがあったら
コインがいくつあっても勝てないですyo

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冬空に舞う桜花 16

■お茶の間会議場
山のような食器を片付け終え、居間に戻ると
そこでは難しい話が始まっていた。

――結界
この敷地にはもともと結界が敷いてある。
構造自体は簡単なもので、侵入者警報程度もの。
シンプルかつ確実で、結界の有無を
外部から悟られにくいという利点があった。
だが……待てよ。
前に慎二が桜をさらっていった時、
この結界はあまり役に立たなかったんだよな……

聞けば、夜のうちにキャスターが結界を
作り直してくれたらしいのだが
これがまた複雑で強力。
その効果は魔法障壁、魔力供給、圧力
これが三本柱となっているらしい。

圧力は、敵が結界内に侵入した場合、
1ランク強制的に能力を下げる効果。
ライダーの魔眼を弱くしたようなもので、
柳洞寺周辺に展開していたものと同じものだ。

魔法障壁は、結界内外への霊体の透過を防ぐと同時に
結界外からの魔法干渉の遮断が可能なのだそうだ。
臓硯による桜への干渉力をある程度低減できるらしい。

魔力供給は、この敷地の地下にあるという龍脈から
マナを吸い上げて魔力に転換、これを結界内にいる者に
自動的に供給してくれるという。
うちの龍脈は柳洞寺のそれに比べると規模が小さく
魔力の量的供給能力は高くないらしいが、
逆にマナの質は良いらしく、効率よく安定して
魔力に転換でき、結果、継続的に魔力の供給が
可能なのだそうだ。

なるほど魔力供給か、それはありがたい。
今朝の桜が元気だったわけはそういうことなのだから。
これならキャスターも桜も、ある程度は
魔力の飢渇状態から解放される、ってことだ。
さすが、陣地作りのプロフェッショナル。

――飢渇と言えば、問題はもう一つあった。
それは……我が家の食糧事情の悪化だ。
ここのところ急に人口が増加したもんだから
冷蔵庫も米櫃も、もはやスッカラカンなのだ。

「買い出しが必要なのは理解しているわ。
 そうね、メンツは……わたしと――」
俺の提案を受けて、遠坂が割り振りを決め始める、が

「いや、俺が行く。
 ここのところ、何の役にも立っていないし
 皆は戦いの準備があるだろ?
 俺はこの状態だし……」
 そう言って首から吊してある左手をヒラヒラさせる。

「…………」
が、遠坂は怖い顔して睨み付けてくる。
何か怒らすようなことを言ったか俺?
その遠坂が何か言おうとした時――

「先輩が行くのでしたら、わたしも――」
「その必要はない。
 昼間とはいえサクラを外に出しては危険すぎる。
 エミヤシロウには私たちがついて行きましょう」
一成と共にキャスターが立ち上がって、桜の言葉を遮った。

「でも、わたし……」
なおも食い下がろうする桜を――
「エミヤシロウが心配? しかし今の貴女では……
 大事な彼を護れないでしょ? 違う?」
――と、薄笑いを見せながらねじ伏せた。

「…………」
桜もまた、怖い顔をして押し黙ってしまった。
姉妹揃って……そんな怖い顔しなくても
折角の美人姉妹が台無しだぞ。

て、いうか……キャスター?
なぜ怒らせるようなことを……
奇妙な話の流れに、ふと疑問を持つが
今は……それどころじゃないな。

「とにかく行ってくる。いつもの商店街だから
 買い物が多くても小一時間程で戻って来られる」
いいな?と遠坂を見るが
プイッと外を向かれてしまった。
桜も……? うん、怒ってる……

ま、行くと決まればさっさと済ませよう。
むくれている桜にそっと耳打ち。
「お土産買ってくるから、な?」
コクリと頷いてくれた桜の背中にそっと手を添え
静かにもう一言。
「桜……いってきます」と。

■玄関
遠坂はアーチャーと部屋に引き篭もって何やら会議?
桜とライダーはもちろんお留守番。
イリヤは蜜柑を持ったままお昼寝中(ふて寝?)

そして俺は、一成とキャスターの以上三名で
深山マウント商店街へ買い出しに出かけることとなった。

/////////////////
■~今回のNG~

監督「…………」
監督「…………」
監督「……??」
監督「む? NGはどうした」
ねこ「わ、忘れてましたニャー」
監督「…………」
監督「……ふむ、なるほど。それがNGか」
ねこ「…………違(ry」

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冬空に舞う桜花 15

■居間
直ぐにでも身動きできるよう腰を貯め、
居間の中を数歩進み桜の視線の先を視界に入れる

Cast03 「――何事ですか?」

「はいー?」
間抜けな声を出して
一歩飛び退いたのは、俺

台所にいたのは……
割烹着姿のキャスター、その人だった
テキパキと仕度をしていくその姿は、
日本の台所に恐ろしいほど似合っている

これでは桜が完璧に凝固しているのも頷ける
気が付けば――牛乳パックを片手に
パジャマ着のまま固まる姉、遠坂の姿もそこにあった

やれやれ。また、台所紛争勃発ですか
桜が我が家に来るようになってから
何故か周期的に訪れるこの珍騒動
第一次台所紛争は俺と桜で
第二次台所紛争は藤ねぇと桜だったよなぁ
もうあれから……一年以上経ってるのか

……ドクンッ
時が経つ――その言葉に目の奥が痛む

【その時、もうすでに桜は――■■■だった】

お、俺は……何考えているんだ!?
頭の中をガッと傾け、ドス黒い中身を
ごみバケツに叩き落としながら、台所へ一歩挺身

「あーその、キャスター? すまない。
 朝食の用意なんかさせちまって。
 えっと、何か手伝うことはないか?」
無理矢理にでも思考を切り替えるべく体を動かす
こうすれば……少しは気が紛れる、から

 【それは――逃避ではないのか】
 【今までも――そうしてきたように】

「殿方は台所に入らないで下さい。邪魔です」
取り付く島もない……
てか、昭和時代のおふくろさん?

「仕方がない……。
 桜、台所(ここ)はもうキャスターに任せて
 お膳の方の仕度をしておこう。
 何しろ人数が多いから時間がかかるぞ」

「……え! あ……はい、先輩!」
固まっていた桜を呼んで、一緒に居間の準備をする
俺は片腕が利かないし、大きな机のセッティグにはちょっと
難儀する。だから桜の手を借りた。
だが――それは思いの外、桜向けの好判断になった

呼吸を合わせて机の移動、食器を手渡しして配置
つまらない作業だが、一緒に何かやる、ということが
とても楽しく感じられる
気が付けば――桜にも笑顔が戻っていた

■朝の食卓
玄米を僅かに混ぜた梅干し粥、大根の赤出し汁
きんぴら牛蒡、浅漬け(桜お手製)、卵豆腐
温野菜の和風サラダ、海苔の佃煮

うむ、材料が乏しかったのに見事なまでの精進料理
お肉スキーなイリヤには甚だご不興ではあったが
その腕前たるや皆さんの舌を満足させるほど
特にきんぴら牛蒡などは――

【再現】
恐る恐る、箸をのばす桜
一摘みして、お口に運んで……がっくり

程良い甘辛さと火の通り加減が実に絶妙
「桜、今日の夕飯は――」
「はい、先輩! 負けていられません」
――などと意気投合してしまったり

洋食の鉄人遠坂に続いて、またも強敵
今度は和食の鉄人出現
俺の回りには、なぜこんなにも料理上手が多いのか
などと悩んでいると――

「キャス子さん、おかわりを頂きたいのですが」

はいー??
……当事者二名を除いて、
その場の残り全員が瞬間凍結乾燥

「忝(かたじけ)ない」
慇懃に一礼してキャスターから粥の入った碗を受け取る
一成に嫉妬してしまいそうなほど皆の視線が集中☆

その後、キャスターの呼び方を肴に
奇妙な朝食はサクッと終わったりする

■台所
さて――朝食はご馳走になったのだから
片付けくらいはしないと衛宮家の家長としては問題だ
無理矢理にでも台所を占拠して、洗い物開始

だが……片手では思いの外、難儀してしまう
結局、洗い物は桜に任せ、俺は桜が洗い終えた食器を拭いて
片付ける役に徹することにする
なんだか……とても情けない
戦うことも、家事も、
どれも中途半端にしかできていないぞ、今の俺

「やっぱり合わない……。でも……まだ間に合う、のかな」
直ぐ後ろから、ボソッとそんな声が聞こえた
「ん――?」
振り返るとイリヤが不機嫌そうにこちらを見つめていた
だが……俺と視線が合うと、ちゃぶ台の上にあった
蜜柑を一つもって、居間からトットと出ていってしまった

何だ? 合わない……とは……
もしかすると……俺と桜のこと、なのか?
朝といい、今日のイリヤの挙動はちょっと気になる
あとで時間を作って、話を聞いてみるか……な

////////////////
■~今回のNG~

直ぐ身動きできるよう腰を貯め、
居間の中を数歩進んで桜の視線の先を視界に入れる

慎二「よう衛宮。それに桜も」
桜「……に、兄さん!?」
監督「…………??」
慎二「腹減ったから来ちゃったよ」
キャス子「ふふ、良いタイミングですね」
慎二「はぁ?」
キャス子「味噌汁の具!」
慎二「ギャー」
一成「赤だしにワカメ……なるほど。喝」
監督「……なめ茸、ではないのか?」
凛「この時期なら蕪もイケるわね」
士郎「油揚げにも外せないぞ」
ライダー「麩(ふ)もよろしく」
慎二「マテ……オマイラ」
桜「(苦笑)」
ねこ「トマト」
一同「邪道!」
ねこ「ええ!? 美味しいのに…」

キャス子さんはお料理上手?
神話では薬草を釜で茹でて
若返りの薬を作ったり、毒薬を作ったりと(マテ)
料理関連?の逸話が見られるので勝手に設定~
和食は柳洞寺仕込みってことで。。。
これでイリヤが料理上手だったら
ますます藤ねぇのポイントが下がって行くぞー(´∀`)
ライダーは…利き酒専門?

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冬空に舞う桜花 14

■衛宮邸 朝
 「シロウ! 朝だよーッ! ……え”ッ!?」
   バンッ!
   トタトタトタタタッ……ガッ……トットトト……
そんな音で意識が覚める
むむ、今の声はイリヤだな
しかし最後の蛙の鳴き声みたいのは、なんだったんだ?

体内時計ではおよそ6時、15分前ほどか
そろそろ起きないといけない
でも、なぜか起きるのが――ひどく億劫だ
ん、この時期としてはとても温かい朝、だからか?
しまった。そう言えば……鍛錬忘れていたなー

などと思いつつ半身を起こそうとすると――
あれ? 何だか柔らかいものが?

Sakura21b

   ふにふに
 「――ッ!!」
一気に血圧ブースト!
朝の微睡みは超音速で地平線の彼方

 「……先、輩……?」
目の前に……露わとなって婀娜(あだ)めく
大きな膨らみががが~~

 「きゃっ! せせせ、先輩~ッ!? ダメ!
  見ちゃダメです~! あ、服……と、あんなトコに……
  えっと、お布団で……隠して」

ま、待て桜! その布団を持っていっては行けない!
男性の神秘が……ああああああ朝のののの珍秘ががが

   ――朝

命賭けの戦争をやっているというのに
いつもと変わらず陽はまた昇る

が、『いつもと』違う朝がここにあった
桜にタオルで厳重に目隠しされ、俺はポツンと布団の中
近くでは服の擦れる音……

さ、桜。この緊急回避措置は分からなくもない
だが……これはこれでちょっと危険な気もするの、だが

 「せ、先輩? まだそれ取っちゃダメですからね。
  わたしが部屋を出て、障子を閉めるまで
  それ、取っちゃダメなんですからね」

 「え……あ、わか、った」

もう着替えは済んだだろうに
何故、外に出るまで目隠しを??

   タンッ トトト……ゴッ! ト、ト、タタタ……

障子の閉まる音がして、足音が遠離っていく
途中のアレは……きっと段差に小指をぶつけた音だな、うん

ターバンよろしくグルグル巻にされたタオルを解きながら
――これはいったいどういった儀式なのか――
などといろいろ思い倦ねてみる
まるで鬼ごっこか、だるまさんが転んだでも
やっていたかのような錯覚
 「……ふぅ」
ようやくこちらも着替えに取り掛かる

昨晩は……あの後、少しだけ話し合った
いや、話を聞いた、といった方が適切だろう
どちらからともなく眠りに落ちるまで
お互いの昔話をしていた
桜のする話には……それこそ胸が押し潰されそうな
ものもあったが、桜の普段とあまり変わらない話し方のせいか、
不思議と悲愴感や焦燥感というものが、
そうダイレクトには伝わってこなかった
それが、なんというか、幸いだった

【桜本人があまり気にしていないのか――】
【――或いは桜ではない別の桜の視点なのか】

もし、悲愴感たっぷりに話されでもしたら
それこそ朝まで一睡もできはしなかっただろう

などと考えているうちに着替え終了
えらく時間がかかったのは……左手が利かないからだ
ズボンのボタンをするだけでも重労働だったのは
内緒中の内緒のトップシークレット
何故なら、ば
桜に知れたら、それこそ着替えをさせてもらえなくなる

ああ……2年前の悪夢を思い出しそうだ

酒屋のバイトで怪我をしたとき
桜のしてくれた手助けはありがたかったが
その……やや度の過ぎたところがあって……
男としての……まぁなんだ、威厳が、ね

おっと
早く行かないと朝食の用意を全部桜にさせちまうぞ
少しだけ慌てて俺は部屋をあとに――
   ……ゴッ!
痛ッ! 小指ぃぃ!

■廊下
お、いい匂いがしてきた
味噌汁の匂いが鼻に心地よい
うむ、朝から赤出しか

桜にしては珍しいな、と居間を覗くと

■居間

「……、桜?」

そこに呆然と立ち尽くしている桜がいた
様子がおかしい?
殺気立っているというか……まさか!
敵が……いるのか?

////////////////
■~今回のNG~

監督「私にも絆創膏をくれたまえ」
凛「アンタもかー!」
監督「凛、ソックスに穴が開いているぞ」
凛「あ、あっれぇ? あははは……」
一成「む、皆して覗きか……色即是空、喝」
凛「一成? あら、足の小指、血が」
一成「なに? そんなはずは……」
凛「フッ、アンタも、喝、ね」
一成「…………」

うーんなんかダメですね。
桜と士郎のHって……その前後をもっと大切にしないと~
このHが、後々大変なリスクに繋がってしまう
そんな可能性を二人とも知った上でのHだから
もっとこう……その、なんていうか……あれですよ。

あ、ダメ……鬱が……もうそこまで……
ギャー

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冬空に舞う桜花 13S

幕間 ~閑話休題~

それは聖杯を巡っての争いが勃発する
数ヶ月前のある日のこと……

■衛宮邸前
「それでは先輩、失礼しますね」

いつものようにペコリと一礼。
藤村先生の後について先輩の家を後にする。

「今日の白菜の浅漬け、絶品だったよぉ。
あれだけで、ご飯3杯いけちゃったー♪」

「ふふ、ありがとうございます」

「柚皮の香りと、塩加減が絶妙なのよねぇ」

お腹いっぱいの藤村先生は、うんうん、とご機嫌だ。
先輩の家から一緒に帰るときは、いつもこんな具合。
料理のこと、学校のこと、先輩のこと
本当に話題は尽きない。

私は聞き手で、先生は話し手。
月夜の下、これもまた楽しい一時。

でも……
それもこの十字路まで

「それでは、わたしはここで。
お漬けもの、明日の朝御飯にも用意しておきますから
楽しみにしていて下さい」

「わー、それは楽しみだよぉ~♪
お腹いっぱい空かせて行くからね~。
それじゃ、気を付けてお帰りなさい」

「はい」とニコリ微笑んでまた一礼

クルリときびすを返したところで――
わたしの笑顔は消える。

坂を登っていくということは、
もう一つの現実に近付いていくということ。

それを拒否することはできない
逃げ出すこともできない
なにもできない

ただ……現実を受け入れる、ただそれだけ

■間桐邸
「もどったか」

玄関を開けると、そこにはお爺さまの姿。

そう――これが現実
間桐の娘として課せられた……わたしの使命

背筋を伸ばして、お爺さまの言を待つ。

「今日の修練じゃが――」

次の一言でわたしの夜は決まる

蟲の相手
蟲の餌
刻印の調製

そのどれもが言葉に尽くせぬ耐え難いもの……

昨日、お爺さまから言い付かっていた。
今日からの修練は一層過酷になると。

だから……奥歯を締めて覚悟を決める

「――無しじゃ」

「………え?」

「慎二(あやつ)も眠らせておる。オマエも早ぅ寝ろ」

それだけ言って、お爺さまは音もなく奥へと行ってしまった。

■桜の部屋
何もない夜
週に幾度もない平穏な夜

教科書を開いて予習、復習。
本を読み……そして先輩を想う。

気が付けば時計の針が12時を回っていた。

いつもなら……修練は半ばの頃

それが今宵は温かいベッドの中。
兄さんも来ない……自分だけの時間。

【誰にも犯されることのない私だけの世界(ゆめ)】

「先、輩……」

先輩を胸の中に抱いて……そっと瞼を閉じた……

■間桐邸 庭
月が沈み星明かりもなく、真黒色に染まる庭。
そこに人影が一つ。

そして――無数の音

 キチキチキチ……

「ふむ、程良い灯り加減じゃ。どれ……取り掛かるとするか」

 コンコン
杖で地を数回叩く――と

 キチキチキチ、キチ……

あの音が、庭中に散っていく
通りにも遠い隣家にも人の気配はない。
あるのは……無数の小さな気配、だけ……

■間桐邸 朝
ひんやりとした空気が頬を撫でる清々しい朝。
天気は晴 お日様が待ち遠しい。

時刻は6時前、昨晩仕込んでおいたお漬けものを
持って玄関を飛び出る、と――

「……あれ?」

いつもと様子が……風景が違う?
庭の木々が……、芝が……、何かが違う。

【夏の間、伸びていた枝葉が落ち、形が整えられている】
【秋の間、散り落ちていた葉がきれいに無くなっている】

「……あ、そっか! ……ふふ、クスクスクス」

Sakura20  

なんだか可笑しくなってきた
だってそうじゃない?
いつもわたしを虐めている
あの蟲(こいぬ)たちが
庭木の手入れをしていたなんて

しかもその仕事は……職人顔負け
使いようによっては役に立つのね

「あ、いっけない。急がないと。
先輩、きっといつものところで寝ちゃってるから……」

わたしは急く気持ちをそのままに、
いつもの坂を駆け下りていった。

■間桐邸 夜
今日は早く帰ってきたので、自室でお爺さまを待つ。

「…………」

時計の針は刻々と過ぎていくのに……お爺さまは来ない。
日付が変わろうかという時、お爺さまの気配が。

「桜、修練はしばらく中止じゃ」

姿のないお爺さまの声はひどく疲れている様子。

「どうか、されたのですか?」
「…………」

お爺さまからの答えはなく
そのまま気配はズルズルと闇に溶け消えてしまった。

ポツンと一人、部屋に取り残される。

また……私だけの時間がやってくる
また……先輩の夢が見られる……
胸の中がドキドキしてくる

髪を解き、ベッドに潜り込む
「先輩……また……会えましたね……」
そして訪れる、気持ち良い眠りの世界……

■地下修練場
「あ、いた、痛たたた……そこ、違……つぅぅ!
なんともまぁ……忌々しい……ことじゃ……。
もう年かのう……ん? 蟲(オマエ)もかー」

そこには、蟲どもの群れに体を預け
マッサージを受ける臓硯のおぞましい姿があった

――彼のこの小さな失態が
後の彼の命運を決めたなどと誰が思っただろうか――

もし、彼が庭木をそのままにし
桜の戦闘用調整を済ませていたのなら
未来はまた違ったものになっていたかも
知れないのだから

まさに……Fate、哀しき運命……

■今回のNG
ねこ 「というシナリオを考え――」
監督 「(光速で)ボツ」
ねこ 「うにゃーん…」

という、たまには毛並みの違った物も作ってみるtest
( ´_ゝ`)

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冬空に舞う桜花 12

■居間(幕間)
「な、なんと醜悪なッ! 獣行蛮行もここまでくれば
もはや人にあたわず! 即刻四悪趣に落ちるがいい!」

一成が蟲いっぱいの水晶玉に向かって拳を振り上げている

驚いた
普段穏やかな彼が、こんな激しい剣幕を見せるなんて

ああ、そうか――
キャスターのあの目は……それを予想していて……ん?

「でも、ちょっと待って。
これって……今の貴女じゃないんでしょ?」

「これは平行世界の私。ですが、ある意味現実でもある。
何故なら……今頃、この悼しき死虐を受けているのは……
おそらくセイバー、なのでしょうから」

「……ッ!!」

そうだった……
アインツベルンで遭遇した黒いセイバーは
確かに様子がおかしかった。
洗脳とか、令呪の移譲とか、そういったレベルでない
もっと激しく異様な雰囲気。
それはこういうこと、だったのか……

静かに、そして圧倒的な語勢をもって
キャスターは続けていく。

「この戦、私はエミヤシロウの存在を一つの要と見ている。
あの者の稀有な有り様は、或いは不利を有利に
或いは絶望を希望に、運命を覆す原動力になるやもしれない」

「が、当の本人が何も知らぬで真価を発揮できねば何とするか。
セイバー、あの娘、彼女らの哀苦を知らずに
彼の者が最後まで戦いきれると、そうお思いか?」

それは……わたしか……ライダーか
どちらに向けた言葉なのか

だが、反応したのはライダーだった

「キャスター、貴女の言い分、分からぬわけではない。
が――、サクラの心、気持ちはどうなる?
シロウに過去の真実(それ)を知られて、
サクラがどう思うか考えたか?
そもそも、何の権利があって――」

「権利? ふふ、おかしな事を。もとよりこれは戦争。
権利や義務など笑止千万。敢えて言うなら、勝利することが
義務であり、互いの魂を奪い合うが権利ではなくて?」

「……ッ!」

「それに……権利も義務も理(ルール)の上にあるもの。
だが、この聖杯戦争の理は既に壊れ形を留めず
もはや機能すらしていない。この状況にあって
人の描く義務だの権利だの、所詮絵空事でなくて?
現に、あの娘には人としての権利など微塵も与えられず、
メトセラ(ゾウケン)の駒として、そして玩具として
いいように扱われ続けているではないか」

「…………」

ライダーの言葉を詰まらせるほどの破壊力
だが……その通りだ

数の合わないサーヴァント
影という存在
今まで構築してきたルールなどまるで度外視

そして臓硯の行い
魔導師として、人として
規範を大きく逸脱しているのも問題

これがもし社会の目に触れ、
教会や時計塔の介入の口実にでもなれば――
十年前の前科があるこの街は
それこそ灰燼に帰す可能性だってあるのだから

沈黙が訪れる

――ここまで言うんだ
キャスターは……まずは信頼しておく、か
そして……一成の口封じ
――ってどうやって? んん……ん

あああ、ダメだ
ちょっと今のわたし……頭に血が上ってきてる
とにかく――

いったん間を置いて冷却期間を設けるッ!

「キャスター。貴女の行動理念、少し分かった。
それに――臓硯も。聖杯戦争の行方とは別に
あのクソジジィ(女の敵)は何とかしなくちゃいけない。
ここのところ立て込んでいたから失念していたけれど
この街周辺ね、異様に失踪事件が多いのよ。
特に女子のね……。まだ確定した訳じゃないけど
恐らくは……」

「ええ、あのメトセラと蟲の仕業です。
あの者共は人を喰らって生きながらえる、人にして人外」

「ええ。例えこの聖杯戦争(たたかい)に敗れても
臓硯だけは処置しておかないと……そうしておかないと
この街にとっていずれ最大の憂いになる」

「それといい、柳洞君! 今のこと士郎や桜に言ったら――」

ぶっ飛ばす! とか視線で訴える
が――そんな脅しが彼に通用するわけがない、か。

「今のこと、あくまで士郎と桜の問題で、
わたしたちが土足で踏み行っていい問題じゃない
事はそんな簡単な問題じゃないの。
キャスターの言う通り、士郎にも知るべき事ではあるかも知れない。
だけど――それはわたしたちじゃなくて、桜自身によって
伝えられるべきものでしょ? 違う?
あの子、桜はああ見えてしっかりしている子だから
必要があれば……きっと自分から言うはずよ」

「む、むぅ……。何だかよく分からぬが――
わかった、遠坂の言う通りにする。
こちらからは口外しないことを約束しよう」

あれ? あれれ? なんとあっさり??
もし、かして……桜のこととか、分かってない?
ああああああああ、しまった、軽率だったかも……

「だが意外だ。遠坂がこれほど
他人(ひと)を思いやるとは……な。正直見直した」

「当たり前よ実の妹だもの……それに士郎は……」

「ん……? 今なんと? 声が小さくて……」

「な、なんでもない! 唯の、独り言よ……」

あああ、もう限界!
これ以上ここにいたら、噴火しちゃいそう!

頭の中で無理矢理ギアチェンジして回転数を落とす

この後、風呂に直行
熱い湯船で一息入れて、冷凍庫のアイスで糖分補給
で――ミント歯磨き使って歯を磨いて――寝る!
あ、――と、その前にイリヤの様子を見ておかないと

予定という名のピースをパパッと組み上げる

「今日はここまででいい? だったらわたし、もう寝るから」

「その前に、一つ提案があります」

えええ! まだ何かあるの? とキャスターを振り返る
彼女は、天井や外に目を配らせて、言を続ける

「この敷地にある結界ですが……」

「ああ、これね。侵入者警報程度のものだけど……それが?」

「この結界、私に管理を委ねていただけませんか。
より良い結界に作り直します。
あのアサシンの奇襲を満足に防げぬ場所に
イッセイを置いてはおけません」

ふむ、と考える。
そして、どう? とアーチャーに目配せ

肩を上げて、さぁ?

あらそう。うーん、どうするか……
あらゆる想定を巡らし答えを導く

「いいわ、やってみて。
悪いけどアーチャーを監視に付ける」

「やれやれ……人使いの荒いマスターだ」

「ふふ、ご愁傷様」

あ、ライダーが笑ってる?
へー、笑うんだー

「わたしは寝る準備に入るけど、ライダーはどうするの?
桜のところに戻るの?」

Rider02長い髪が少し揺れる
ん? 動揺している、のかな?
なんでなんで? どうして?

「い、いえ、アーチャーがキャスターの見張りにつくのでしたら
私はしばらく敷地周辺を見回っておきましょう」

そう言って姿を消した

うーん、気のせい?
今のアレ、なんだろう?

ま、いっか

今はお風呂! 風呂風呂! 風呂ぉ~~!
リフレッシュしないと……猫の皮剥がれちゃう……(汗

 

■~今回のNG~
「な、なんと醜悪なッ! 獣行蛮行もここまでくれば
もはや人にあたわず! 即刻四悪趣に落ちるがいい!」

一成君が蟲いっぱいの水晶玉に向かって拳を振り上げている

コンッ!

一同
「あーっ!」

コロコロコロコロ……ポリンッ!

一同
「…………」

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冬空に舞う桜花 11

■廊下
居間を後にした俺たちは、桜の寝室へと向かっていた

「あの……先輩……」

フワフワと危なげな足取りで俺の横を行く桜が
ふわっと立ち止まる

どした? と、こちらも立ち止まる……と

「先輩……わたし……怖いです」
夜空を見上げた桜はそう小さく呟いていた。

そしてゆっくりと振り返って小首を傾げながら
とても淋しげに微笑んで――

「どうして、なんてしょうね。
先輩とこんなにも、肌を合わせ合うほどに、
近くなれたのに、それが時々、とても怖く、
胸が締め付けられるほど怖くなるんですよ?」

そう言って再び暗い庭に視線を移し
そっと、風にでも触れるかのように手を泳がす

Sakura19

 

 

 

「近くなればなるほど……先輩、遠くへ行ってしまいそうな
そんな変な気がして……とても怖いんです……」

「ばか、前に言ったろ? どんなことがあっても
桜を一人っきりになんかにしないって。
そりゃ……四六時中一緒にいることは――」

「そうじゃないんです」

ほんの少しだけ語気を強め、俺に向き直る

「もし先輩がわたしから離れていったら……
もしセイバーさんみたいにいなくなっちゃったら……
わたし……哀しくて、切なくて、怖くて
きっと、どうにかなっちゃいます。だから――」

だから――好きにならなければ――
出会わなければ良かった――

そう桜は言った
その色さえ変えられてしまった瞳が潤み
頬を涙で濡らしながら……

だが桜の言うことは……俺自身も感じていたことでもあった

桜が慎二に連れ出され、居るべき人が
居なくなってしまったこの家を見て――

気付いてしまったんだ

この家には……そして俺には……
桜という一人の女の子の存在が必要なんだ、と

一年半前この家に来るようになった一人の少女
それは妹のような存在に移り変わり
いつしか欠けてはならない日常の一部に
なっていたのだ……

考えることさえ避けていたことが首をもたげてくる

【――このまま、桜がいなくなってしまったら――】

桜がじっと俺の言葉を待っている
だから俺は――

そっと桜の頬に手を伸ばし
頬を濡らす雫を指先で拭ってやる

「俺も……桜と同じだったんだ」

「――え?」

「桜がフワフワとどこかに行ってしまいそうで
俺の手の届かない遠い所に行ってしまいそうで
とても……怖かった」

「……先輩」

「俺の方こそ、臆病になっていたのかも知れない、な」

桜は俺の手をとると、そっと頬を埋め言った

「強引でも乱暴にでも構いません。
わたしを掴まえていて下さい。
そうしたら……わたし……
もう少し頑張れるかもしれません、から」

桜は俺の手を引きながらスッと体を滑らすと、
直ぐそこにある俺の部屋の障子に、手をかけた

■士郎部屋
桜に促されて先に部屋に入る

俺は後から入って来た桜が
ゆっくり障子を閉める音を聞きながら
電灯をつけようとしていると――

「先輩……今日も……」

何事かと振り向いた先に――
恥ずかしげに、そして悦々として
白い肌を見せる桜の姿があった……

「今日も……抱いてくれますか?
この身体の疼きを、火照った体を……先輩に
……先輩だけに鎮めて……欲しい」

ぐにゃりと部屋が笑う中……
俺は桜を……

 
////////////////
■~今回のNG~
桜「かーんとーくさーん」
監督「ん?」
桜「どうして、私たちのえっちシーンがないんですかー」
監督「そこは大人の事情で割愛した」
桜「むー」
監督「ふ、私が知らないとでも思っているのか?」
桜「え?」
監督「幕間の間に――」
桜「え? あは……あはははは……」

  
HFルートと少し時系列が変化してますねー。
HFの流れを勘違いして記憶してました……;
桜と士郎の初Hは教会治療後、割と直ぐなんですよね。
だから整理すると――

0対キャスター戦
1セイバーを失う
2桜、慎二にさらわれる
3教会で桜治療
4士郎の選択
5桜と初H
6アインツベルン城戦

……このSSだと
234が記述中途半端で、5と6が転覆寸前で
キャス子さんの訪問は6の後……^^;

あ、ちなみに
234はゲームでほぼ一日の出来事ですけど
この間、当SSではキャス子さんはこっそりと
一成と信頼関係構築作業中?…ドキドキ
4の士郎選択は……実はHFとは別の選択させてます。
それは、この後のSSで言及できるかも??
キーワードは 『ダルメシアーン』
(そんなコトするからややこしくなるのだーw)

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冬空に舞う桜花 10

※ご注意下さい
当編にはキャスターの凌辱シーンを連想させるような
一節が含まれています。該当シーンに嫌悪感を抱く方は
ご回避下さいますようお願いましますですー((((;゜Д゜)))

■居間(幕間)
士郎が桜を連れて退席した後
居間に残されたのは――

わたしとアーチャー
そして憤慨未だ冷めやらぬライダー。
対峙する形で、いかにも不満然としたキャスターと
彼女のマスターにして、訳わからんちん顔の一成君。

――この五名

しばらくしてキャスターが溜息一つ
「……何も知らぬはエミヤシロウ唯一人、ですか」

さらにもう一つ特別大きな溜息を重ね、視線を上げる
「あの娘を救おうという彼こそが
知るべきではないのですか?
あの娘に起きていたことを、そして起きていることを」

そう、衛宮士郎は知らない。
【――それは彼の責任ではない】

間桐の家に入ってからのこの11年間、桜に身に起きていたこと
そして今――何が起きて、どうなろうとしていることも。
【――それは周囲の人間が意図した故】

教会での治療の後、士郎と桜の間で、
何かがあったことは気付いている。
恐らく、そこで桜は士郎に告げているのだろう。
……呪われた自分の身の上について
【――だが、それも言葉の上】

現場も、実際の行為も目の当たりにしていない士郎に
それは具体的に理解できぬものと言っていい。
【――それを知れば】

それだけに――キャスターの見せる映像は……
より一層衝撃的に映るだろう。
【二人が受ける影響は……きっと計り知れない】

――そもそも、蟲に食われる自分の姿を
大切な人に見せたがる女がどこにいるというのか――

「……仕方ありませんね。では、今宵はここまでと」

「いいえ、続けて」

引き下がろうとするキャスターを言い留める。
確かに士郎の問題はある。
けど、今は信頼の問題を見極めるのが優先なはず。
ならば――

「今の、興味があるわ。良ければ続けてくれない?」

わたしの言葉に、ふむ、と一考したキャスター
手を掛けていた水晶を元の位置に戻し、改めていずまいを正す。

「……いいでしょう」
そう短く言って水晶玉に念を投じ始める。

「これからお見せするのは……私の、もう一つの運命」
一瞬、瞳に宿る怒りの彩(いろ)。
そのまま一成君へと投げかけられていく眼差しは……
いつの間にか深い憂いと哀しさを浮かべたものに
変わっていた……

水晶球が再び淡く輝き始める。

「もし、セイバーのマスターが令呪を行使せず
勢いのままに私を斬らせていたのなら……
その私が今どうなっていたのかを、ここに映し出します。
これを見れば、私が何故メトセラ(ゾウケン)を
目の敵にするのか多少なりともお分かりなってもらえると」

気のせいか、その言葉は……わたしにでなく
一成君に向けて放たれているように、聞こえた

映し出されたのは――間桐の地下修練場。
先日、アーチャーと偵察に出て見つけた、あの忌まわしき場所。
思い出しただけで……あの時の激情が甦る。
沸き上がってくる嗚咽感をどうにか押し殺し映像を凝視し続ける。

ゆらりと地に何かが光る。

そこに一人の人形が立っていた。
その足下に……何かが……

「ぬぉ…………ッ!?」
息を呑んだのは一成君だった。

そこには、蟲、蟲、蟲……

子供の腕ほどもある蟲が、床一面隙間なく蠢いている。
蟲は人形に躙り寄ってくると……その足下から
じわりじわりと嬲るように這い上がってくる。

――と、人形と思っていたそれが……ビクビクと!?

「え……ッ!? 人形では、ないのかッ!?」

「イッセイ。あれは……もう一つの私……その亡骸です。
セイバーに斬られた後、私の亡骸を回収した者がいます。
それが……この男」

水晶球に一人の老人が……映る
が、人間ではない
何故なら……半身は……人の形を成していない。
あるべき脚はなく、蟲によって上体を支えていたからだ

見覚えのある姿態

「間桐……臓硯……」

キャスターの亡骸は生きている、いや、生かされている。
黒き仮初めの魂を与えられ、意のままに傀儡られている。
そこには人格も自我も既にない。
ただ、蟲どもの慰み物として供される隷奴として
抵抗することも出来ず、そこに立たされているだけ。

キャスターの亡骸は、苦しみとも、快楽ともつかぬ
表情を浮かべ、体を大きく幾度も震わせ啾々と声を上げる。
それを老人は鬼喜悦悦とばかりに眺め
髑髏の乾いた笑みを、零していた……

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冬空に舞う桜花 9

■居間
結局、会合冒頭の小一時間は、信用問題を議題に
どこぞの議会中継よろしく、お茶請けが無くなるほど
ぐーるぐる堂々巡りを重ねていたのだが、
それでも、キャスターと遠坂の溝は次第に埋まっていった。

何というか――
言葉でのやりとりも結構重要なんだと再認識。
隣の桜も、その様子を興味深げに眺めていた。

ただ、それでも遠坂は渋っていたのだが
鶴の一声で、とりあえず状況が動き出した模様。

「信用できなくて当然じゃない。
だって本来は敵同士なんだし。
後ろから撃たれたくなかったら
そこのマスター、イッセイ?を人質にもらっておけば?
キャスターが裏切る気配を少しでも見せたら……
その場で殺しちゃえばいいじゃない」

そう暇そーに話すイリヤ
――凍て付く議場

特にキャスターの凍りつきっぷりは――
後々の語り草にできそうなほど。

美女ほど怒らせると怖い

遠坂も、あと何年かしたらキャスターみたいな
美人になると思うが……絶対怒らせちゃダメなくちだな。
うん。今でも怒らせると十分怖いけど
忘れないようよくよく心に刻んでおこう。

そして――そこにいた誰もが
キャスターのお怒りを予想していたのだが――

「うむ、それで納得してもらえるのなら
この身、喜んで衛宮に預けよう」

はいー!? っとばかりにキャスターは一成を振り返ると
なにやらしきりに口をパクパクさせている……

まぁ一成らしいと言えば一成らしい提案だ。
しかも遠坂でなく、俺に預けるとは……流石だ。

――結局、この流れで共闘路線は確立した。

「では……私がアサシンとそのマスターである”メトセラ”
ゾウケンをなぜこれほどに憎んでいるのか──
確かに両名ともソウイチロウ様の仇敵ではありますが
それだけではないのです。
その理由のうち一つをこれからお目に掛けましょう。
――エミヤシロウ
貴男には特に見ていただきたい」

口調を少し変えてきたキャスター。
彼女は大きな水晶玉を取り出し、目の前に浮かべると
そこに念を送り込んでいく。

――と

ぼんやりと何かが映し出されてくる。
灯りも何もない暗い空間?
そのくせ、ぼんやりと様子が分かるのは……
何か特別な仕掛けが成されているからなのか。

よくよく見ると……周囲は巨大な壁と思しき物に囲まれ
そこには小さな洞穴のようなものが無数に、
しかも整然と穿たれている。

――どこかの洞窟、なのだろうか?

もっとよく見ようと、身を乗り出そうとしたとき
腿に置かれていた桜の手が……
ギュッと握りしめられ、小刻みに震えていることに気づく。

と同時に──

「キャスター! キサマ何のつもりかッ!」

突如、敵意を露わにしたライダーが吠える。
見れば……遠坂も眉を顰め様子がおかしい。

水晶に映し出されたあの景色に……いったい何が……?

イリヤなどは
「趣味の悪い余興ね。わたし、もう寝るわ」
そう言い捨ててとっとと退室してしまう始末。

みんな、いったいどうしたんだ?
そう言い出そうとした矢先――

「……先輩、わたし……気分が」

腕の包帯をクイッと摘みながら
「一緒に来て欲しい――」
怯えた目がそう訴えている桜が……そこにいた。

顔は蒼白、まるで今にでも命乞いをしてきそうな、
そんな切羽詰まった表情。
こんな桜を見るのは……初めてだった。
心臓が……ギシリと軋む。

「あ……ああ、わかった。部屋に行こう。立てるか?」
「はい――すみません、先輩」

みんなの反応も気になるのだが
今は桜の体のほうが大事だ。
ここは遠坂に任せるつもりで、
俺は桜に右肩を貸しつつ居間を後にした……

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冬空に舞う桜花 8

■居間
「で――キャスターが私たちに何の用なの?
まさか、共闘したい、なんて言うんじゃないんでしょうね」

桜に尻を攻撃され、お馬鹿モードの俺に
鋭い視線ビームをズビズビ浴びせながら
遠坂が第一声を切る。

「さすがはこの地の管理者。お見通しでしたか」

共闘?
……という事は……俺たちと一緒に闘ってくれるってことか?
なんでさ!?

――が、思いの外、集会場は静かだった。
驚いていたのは俺一人ですか? そうですか……

「まぁね。柳洞寺の一件は士郎から聞いていたし、
相手がセイバーに、数の合わないアサシン。
そして……得体の知れない黒い影。
この調子で行くと……バーサーカーやランサーも
敵の手中にあるかも。
これじゃ、どう控えめに見ても、マスターを失った
キャスターに勝ち目なんてないものね」

で? と相手にボールを投げつける遠坂。
こういう駆け引きの時の遠坂は……本当に怖い、と思う。

――が

「確かに……でも、それは貴女方も同じなのでは?」

「…………」

言い返されて、むぅ、と沈黙する遠坂。
キャスターも負けていない。
実はこの二人って、結構似たもの同士?

――?
気が付けば、尻を捻っていた桜の手は……俺の膝に置かれて
そして……小さく震えていた。

桜を見る。
緊張した面持ち。

そうだった。
今……一番怖い目にあっているのは……

俺は……そっとその手に手を重ねてやる。

気付いた桜は……俺の目を見て、ふと表情を和らげる。
控えめに少し膝を滑らし、俺の脇にやってくる。
俺も少し痛い尻を浮かして後ずさる。
これでお互い、肩が触れ合う距離……

「率直に申し上げましょう。
私はもう、聖杯には興味ありません」

今度はキャスターの口撃か。

「目的は――ソウイチロウ様の仇敵、アサシンが首のみ」

「…………」
遠坂は何も答えない。
だが、その形相は……かなり怖い。

「しかし、アサシンを討つにしても結局はゾウケンらと
闘うことになるでしょう。なれば貴女の言う通り私には勝ち目はない。
アインツベルン城の一件を観ていましたが、貴女方の目的も
ゾウケンなのではないですか? でしたらここはお互い――」

「信用できない」

キャスターの言は途中でにべもなく遠坂に一蹴され、
集会場に短くも重い沈黙が訪れる。

そしていかにも不愉快そうな表情を浮かべ
遠坂が自ら作った静寂を破る。

「そもそもこれが貴女の……或いはこれ自体が臓硯の
策である可能性、決して拭いきれないもの。
だいたいサーヴァントが聖杯を望まないなんてあり得ない」

話を折られたキャスターだが、ふむ、と一考してまた続ける。

「では、信用、という部分を差し置き、共闘する事に関しては
どう考えて?」

「ええ、それは確かに魅力的な――いえ……臓硯との闘いに勝つには
必須とも言える提案ね。実際、わたしやイリヤ、それに士郎だけじゃ
よっぽどの秘策でもなければ勝てないもの」

うわー、遠坂のヤツ、やっぱり言い切るかー。
いや実のところ……その通りなんだ。
明らかに戦力不足、準備不足。
やる事成す事、殆ど総て手遅れで、
これじゃ臓硯の掌の上で踊らされているようなものだ。
結局……桜にばかり負担が行ってしまう……

そして一番役に立っていないのが
……何を隠そう俺なんだよなぁ。

遠坂にはまだアーチャーがいるし
イリヤだって、俺より遥かに優れた魔術使いだ。
桜は万全ではないけど……ライダーがついてくれている。

包帯にグルグル巻きされている腕から少し見える左手の甲を見る。
そこは……セイバーの令呪が刻まれていた場所。
セイバーはもういない。
そして俺の使える魔術といったら……簡単な強化だけ。

改めて「勝てない」と言い切った
遠坂の台詞が冷たく重くのし掛かってくる。

「…………」

あ、背中に嫌な視線を感じる。
チラッと見ると――
目が合ったアーチャーが口の端をクイッと……
くっそぉ。分かってるよ。
今の俺のままじゃ……桜を助けるどころか
何も出来ずに『終を迎える』ってことくらい。

「……では、問題は信用、という点。
これを解決できれば、貴女方の陣営に加えて頂いても?」

「そうね……考えてあげてもいいわ。
ごめんね、こんな言い方しかできなくて。
だけど……戦闘中に後ろからズドンッてのは御免だし
仮にアンタの敵討ちが成立したとして、その瞬間から
いきなり殺し合い、ってのも困るもの」

そしてまた考える仕草。
遠坂もなかなかの頭脳派だが、キャスターもやはり負けていない。
負けているのは俺だけで……
イリヤなどは暇そうで欠伸してるし……大丈夫なのか俺たち?

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冬空に舞う桜花 7

■衛宮邸玄関
「というわけだ。上がってくれ」

一歩退いて、キャスターと一成に中へどうぞと招く。

「良いのですか? まだ味方と――」

「構わないさ。一成は俺の親友だし
その連れなら信用もするさ」

「人が良いのですね……貴男も……」

フゥッと一つ溜息をついて肩を落とすキャスター。
ふと横にいる一成に振り返りひょいと小首を傾けて見せる。
と――一成も軽く頷き返す。
それを見てキャスターは履き物を脱ぎ始めるのだ。
以心伝心?
それは本当に……自然な動作だった。

「あ、スリッパはそこにあるのを……ってもうないのか……?
仕方ない……俺のを使ってくれ。すまん、一成は……」

「いや、気遣いは無用。
寧ろ、この佇まいであればぜひ素足で上がりたいのだが?
この床は……うむ、とても感触が良さそうなのでな」

なるほど。一成らしい心遣いに痛み入る。

「ああ、構わない。
ちょっとここのところ掃除をかまけがちだから
埃が浮いているかも知れないけどな」

キャスターは、用意されたスリッパを見て一瞬躊躇していたように見えたが
結局、一成に倣って素足で上がってきた。

そりゃそうだ。
俺の、なんて言わなければ良かったと反省。
というか……これで家にいるのは何人になるんだ?
俺に桜に遠坂とイリヤ、ライダーにアーチャー……。
これにキャスターと一成で……都合8人か。
……どうりでスリッパが無くなるわけだ、な。
今度、買ってくるか。

■居間
居間というより、もはや集会所……だな。

テレビを片付けて、ようやく全員集合。

イリヤと遠坂はいつものポジション。
その真向かいにキャスターと一成。
俺は机の隅で、直ぐ後ろ台所に近いところに桜が控えている。

アーチャーとライダーは、部屋の隅で立っている。

いや、アーチャーはいいんだ、立たせておいても。

だけどその……ライダーはなぁ……
座った俺の目線とちょうど同じ高さにだな……
こう……スカートの縁と……その……絶対領域……

「――何か?」

いや、何でもない……と言おうとした矢先

「ぅ」

尻に激痛が音速の壁を突き破って奔る

「先輩ー」

さ、桜……強くなったな。俺は嬉しいよ。
だ、だけどな……痛いんです……本当に。

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冬空に舞う桜花 6

■衛宮邸(おれんち)
珍客到来。
俺も含め、一同が呆気にとられる。
いや、桜だけは俺の後ろで高レベル警戒中。

無理もない

玄関にいるのは……年の頃20代半ば?の美女。
青みがかった長く美しい髪を背に流し、薄い生地の衣は
大人のボディラインを、これでもかー! と強調している。
落ち着いた表情を浮かべる整った顔と不思議な耳の形。

あー、昔、こんな宇宙人の出てくる
SFドラマを見たことがあったなー。
『長寿と繁栄を?』
――と思っていたことは……内緒だ。

Photo

むぅ。しかし美人だ。
これでは桜が過剰に反応するのも仕方がない?
しかもその連れが……

「ちょ、ちょっと柳洞くん? あ、あなた……」
「むむ、遠坂!? なに故、衛宮の家(ここ)に?」

こう同時に言葉が交叉するのは
実は両者、心が通じ合っているとか?
んな分けないか。

■回想
昨日、アインツベルン城で
危ういところをキャスターに救われたのは事実だ。

俺は不注意からセイバーを失った。
後悔、焦燥、やりきれない思いが胸一杯に拡がる。
だが――そこで立ち止まっている暇はなかった。

この戦力低下を補うためイリヤに助力を頼みに出た先、
アインツベルン城で――あの『黒い影』に
遭遇してしまったのだ。
どういった攻撃なのか、急速に膨張していく影によって
俺やイリヤは絶体絶命の危機に瀕した。
まさにその影に呑み込まれようとした矢先――
キャスターの放った空間転移術によって、
俺たちは辛くもその場から脱出することができた。

途中合流したアーチャーと遠坂も被害を受けた。
遠坂をかばったアーチャーは再びかなりの手傷を負った。

だが……俺の負った腕の傷は更に深刻だった。
そのため、実はつい先程まで教会で
治療を受けていたのだった。

言峰神父の荒療法のおかげで
腕を失うには至らなかったが
穢れた滓を取り除くためと称して、
腕の動作に必要な肉をごっそり削げ落とされてしまい
俺の左腕はもう二度と動かせなくなっていた。

■衛宮邸
それでも俺は桜のために戦い続けると
そうと宣ってしまい
その桜と一悶着あったところへ……この珍客。

さて、どうしたものか……
桜は……ますます不機嫌になっていくような気配。
かといって、このままいつまでも
三竦みのままでいるわけにもいかない、よなぁ。
この場合の三竦みは
桜→キャスター→俺→桜 って感じだな。

……いや、そうじゃなく

「あ、っと。この前のことは感謝している。ありがとう、
助かったよ。だけど、わざわざ礼を聞きに来た
――ってわけじゃないよな?」

「勿論その通りです。
が……貴男の感謝の言葉、謹んでお受けしておきましょう」

そう言うキャスターは
俺の首から吊っている左手を気にしているようだ。

「ああ、これか? お察しの通り、もう使い物にはならない。
ま、アンタが助けてくれなかったら、
腕一本じゃ済まなかったんだけどな」

その言葉に嘘はない。
綺礼にも言われていた。
傷口に付着した滓は、運良くそれ以上体内には浸潤せず
おかげで辛くも一命を取り留めていた、と。

「やはり……そうなりました、か」

――?
やはり?
それはいったいどう言うことか?
聞き返そうと思ったが、あっさり流される。

「本題に入りましょう。
あなた方の返答次第では、我々はここで引き返します」

「ん、いや……まずは上がってくれ」

「ちょッ!? 士郎、本気なの?」
「せ、先輩~!?」

驚いたのは……俺の背中の方にいる人々

「このまま玄関で立ち話ってわけにもいかないだろ?
それぐらいの礼儀は弁えているつもりなんだが。
もちろん……桜が嫌って言うなら仕方がない、けど――」

どう? と桜を振り返る。
桜は――不服そうではあったが
小さくコクリと無言で頷いてくれる。

「ここは先輩の……家ですし……」
「いや、俺の家っていうか……俺たちの家、だろ?」

その一言で桜はちょっと俯いて頬を染めてしまう
いや、そういうリアクションだと
……こちらも照れるのだが。

あとは遠坂と……その後ろで灰色のオーラを
これでもかー!と身に纏っている男の説得なのだが……

「いいわ、士郎がそう言うのなら。
今のキャスターに……敵愾心は感じられないし。万が一
キャスターが暴れても被害は士郎の家だけで済むしね~」

ピキンッと棘を感じるが
意外にも簡単に折れてくれて助かる。

「……マスターがそう言うなら俺は何も言わん。
ただ……反対票を投じたことだけは明記しておけ」

「ライダーは?」

「アーチャーの意見と同じく……」

うーん、俺の支持率低下中?
辛うじて過半数をクリアしたので
キャスターを茶の間に案内することに決定。

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冬空に舞う桜花 5

■某所
はて――ここは?

目を覚ます

見慣れぬ天井
背中より伝わる違和感
不思議な心地よい香り

ここがいつもの寝所でないことは明白だ
では、いったい何処であろうか?

ずれかけていた眼鏡を正しながら
半身を起こして周囲を見回す。

暗い部屋
床面近くは非常に暗く沈んでいて何も見えない
ただ窓の枠だけが闇の中
うっすらと青く浮かび上がっている

「お目覚めですかイッセイ?
ここは――貴男の通う学舎」

不意に声をかけられ泡を食う。

声のした方を振り向けば――
闇の中、一人の女性のシルエットが
きちんと正座し自分の横に控えていた。

「あ……これは失礼を。
どうやら眠りに落ちていたようで……」

前後不覚であったとはいえ
なんとも体裁の悪かった自分を呪いつつ
居住まいを正し、女性に向き直す

■穂村原学園 生徒会室 未明
「ご心配には及びません。この場所は結界の内にあり
余程のことがなければ気取られることはないでしょう」

この場所は――
この学舎は安全である、と女性は言う
至極当たり前のことだ
夜間とは言え学校である
そもそも危険であるわけが――

いや――そうか……
葛木先生の変わり果てたその姿が脳裏に浮かび、
今までの常識が既に過去のものとなっていること……
それを思い出す

寝霞のかかった頭に血を巡らしサッと整理する
マスター、敵討ち、鬼、事件……

そうだ
尋ねたいこと、知りたいこと
それがまだ山積したままだ

「では……ここで話を聞かせてもらえるのですか?」

「はい。ですが……その前に」

シュルシュルと……衣の擦れる音

――いったい何を?

暗闇ゆえ様子が分からない
彼女が何かあって身体を揺らしている
そんな雰囲気は伝ってくるが……

しばし女性の声を待つが、聞こえてくるのは衣の音だけ
はて、話の前に何か必要なことでも……と思った次の瞬間

甘い吐息
柔らかな手の感触
胸に預けられる程度良い柔らかみ

「…………な、なにを?」

明らかに……彼女は裸であった

「殿方が恐れる必要などございません。
しばし……私に身を任せて下さい。
どうか、力を……抜いて……」

そう言って、グッと胸を押されていく
自然と、身体は寝かされ、
やがてその上に……女性の身体が預けられていく

「ソウイチロウ、様……」

二度目の接吻の直前……女性の吐息が……
そう囁いた気が……した……

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冬空に舞う桜花 4

■柳洞寺裏庭
「……イッセイ。あなたにお願いがあります。
――聞き届けてくれますか?」

唐突に投げかけられた彼女の問いに、さてどう答えたものか。
傍と考え込む。

正直、今がまるで夢のよう。
死の悲しみも、美しい女との会話も
襟首までも濡らす涙さえ――夢と思える。
このような有様で、何をどう答えよと言うのか。
だが、彼女はそのまま続けてくる。

「貴男に、私のマスターとなっていただきたいのです。
ソウイチロウ様の仇を討つまでの間
私が現界し続けるための、寄り代になって欲しい」

その声はとても穏やかで、胸の奥底まで透いて来る。
しかし、仇敵を討つとは尋常でない。
仏門と関わりのある者としては、粗のようなことに
加担するのは承服しかねる。

だが、それさえも見透かしたかのように――

「仇を討つ、ということは相手を斃す、即ち殺めること。
貴方のご懸念はもっともです。
ですが……ソウイチロウ様のお命を奪った者は
『人』という存在ではありません。なれば――
貴男の気懸かりも幾ばくか晴れるのではないでしょうか」

「な――なんとっ!? 人、でないのなら……化物か、鬼か……」

「そう――ですね。強ち、間違ってはおりません。
我等サーヴァントは、マスターの意向やその目的次第で
鬼にも悪魔にも――そして救済者にもなりましょう。
掻く言う私も……自らが儘のために……魔となりました。
――ですが……」

何か理由があるのか、彼女は言葉を閉ざしてしまう。

「…………」
が、こちらも言葉がない。
今、目の前にいる女性、葛木先生の連れ人は……
自らも仇敵と同じ化物か鬼と、そう言ってのけたのだ。

分からぬことばかり
知らぬことばかり
いったい自分に何が起きているのか?
そして……何が起ころうとしているのか?

――思えばここのところ、この冬木市でも
不可解な事件が多発していると聞く。
もしや……この化物や鬼の類の仕業、なのか……

「いかがでしょう? マスターの件、
引き受けてはいただけませんか?」

女性の言葉でハッと我に返る。
だが、幾度問われても、何もわからぬ自分に
即答はこの上なく難儀なことに変わりはない。

「何故自分を、そのマスターというものに推すのですか?
自分には少なくとも敵討ち……戦の心得などございません。
他に適正な人物など、いるのではないですか?」

もっともな返し。
だが――

「生前、ソウイチロウ様は仰っておりました。
万が一自分の身に何かあったら……貴男を頼れと」

「先生、が?」

「貴男はまだ若いが、信頼に足る人物だと。
だから……もしもの場合は貴男を頼るようにと……
事ある毎にそう仰っていました」

意外な答えにスッと目眩を感じる。
葛木先生とは同じ屋根の下で寝起きする間柄であったから
幾度も会話は交わしている。

だがそれでも――
――自分は先生の何を知っていたのか?

家族、生活、過去……いくら思いを凝らしてみても
先生のそれに至る記憶は欠片もない。

なのに、……先生がそのように自分を見ていてくれたとは。

「正直に申し上げて、貴男にはマスターとしての適正はありません。
ですが……今の私に必要なものは適正などではなく
皮肉にも……信の心、なのです……」

美女はユラリと立ち上がると
こちらに正面を向けて静かに言の葉を紡いでいく。
そこに威圧や強制といった感覚は感じない。
ただ……不思議と、心が女性へと吸い込まれていきそうな
そんな奇妙な感覚が、胸のどこかに引っかかっていた。

「貴男がこのような私を信頼して下さるのなら
僕として私も貴男を信じましょう。
そう。ソウイチロウ様と同じように――
決して――貴男を裏切らない、と」

「…………」
真っ直ぐとした瞳。
そこに一点の曇りもない。
その瞳は……どこかでみたような瞳だ。

其れは――誰だったか。
いつも身近にいて、何かと頼りに出来て
互いに嘘偽りを持たぬ、相棒のような存在。
真っ直ぐで……力強く……それでいて優しい……

「ああ、そうか……」

一人の男の笑顔が脳裏に浮かぶ。
そうだ。
彼ならこんな時、きっとこのよう答えるに違いない。

「わかりました……やってみましょう」

「――ありがとう、イッセイ。
では……ここへ。契りの儀式を行います」

手招きに応じて近くによると
目の前の美女は、そっと自然な動作で手を差し伸べてくる。

頬から顎にかけて優しく包まれると
その手によって気持ち引き寄せられていく。
次第に近付いてくる……女性の……美しい顔……
そして――

「……ッ!!」

自分の唇に……美女の唇が重なっていく……

……初めての接吻。

甘い香り。そして柔らかく温かい感触が襲い来る。
重ねた唇が次第に開かれていき……女性の舌が……唇をそっとなぞる。
艶めかしい感触は前歯から……舌先に浸食してくる。
やがて……舌は舌に絡め取られ……お互いの唾液が行き交っていく。

気が付けば……唾液とは違う、もっと別次元の何かが
自分の中に流れ込んでくるのがわかる。

不快な感じはない。
むしろ……甘美で心地良く、脳髄まで痺れゆく感覚。
いつまでもこの感触に弄ばれていたいとさえ思える。

「――ッ!?」

が、突然奔る首の痛みにハッと我に帰る。
首の付け根、右側あたりがズキズキと激しく痛む。

口唇を解放してくれた美女は……
自らの唇に手を当てて……何かを想っていた様子だったが
こちらの様子を伺い見て、言葉を寄せてくる。

「それは令呪といって、我ら、サーヴァントを律するものであり
同時にあなたがマスターであることの証でもあります。
魔導とは縁遠く刻印を持たぬあなたにとって
それを行使することはできませぬが同時に害にもならぬはずです。
その痛みや不快感も直に治まるでしょう」

そう言った彼女は、しばし天の星を仰ぎ、言葉を続ける。

「本来ならば……このあと絆を繋ぐ儀を
取り行わねばならないのですが――」

「絆……?」

「魔力を融通するための流動径(パス)を言い指すものです。
多くの場合はマスターから僕(しもべ)に魔力を供給する目的で
パスを繋ぐのですが、我々の場合は別の目的で繋ぎます」

「ですが……その儀を、今ここで執り行うのはいささか危険です。
詳しいことは、追々お話いたしましょう。
さ、こちらへ……」

「…………」

やはり――分からぬことばかり。
謎の美女、鬼、事件、マスター、そして……
仇討ちに加担するなど……自分でも信じられぬ言動。

まだこの池の畔に来て一刻も経たぬというのに
何か、とてつもない流れに放り込まれ
そのまま為す術もなく呑み込まれてしまったと――
そんな感じがする。
青天の霹靂とはまさにこういう事をいうのか。

流れが急であるのなら……今は身を任せるしかない、か。

彼女の言う通り、話は、追々聞くことにしよう。
この自分に何が出来るのか、何をすべきなのか。
それが……逝ってしまった葛木先生への手向けとなるのなら……
不肖僭越ながら、最大限の……努力をしてみよう。

一度、女性から離れた体を、再び女性の側に寄せる。
フッと心地良い香りが鼻を擽る。
香水か……洗髪剤か……それとも身体からの匂い、なのか。
じわりと、体の奥が熱くなる。
が……程なく視界が歪み、自分はどこか遠くに飛ばさていく
――そんな感じを抱えたまま、しばし気を失ってしまった。

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冬空に舞う桜花 3

■柳洞寺裏庭

紅い月が森の向こうに沈みかかっている。

隠れがちなその光に導かれるかのように
ただただ裏の池へと歩いていく。

なぜ歩いているのか……なぜ裏の池に向かっているのか
自分にはわからない。

ただ、足がそのように動いていて
頭はそのことに何ら疑問を感じていない。

やがて……漆黒の水を湛える池の畔に着く。
そこに人影が一つ。

S0103 

「あなたは……」

見覚えのあるシルエット。
それは、兄と慕っている者の連れ添い人だった。

「お待ちしておりました。こちらへ……どうぞ」

誘われるまま、女性のもとへ歩いていく……と
彼女の直ぐ脇、大き目の飛び石の一つに、
美しい紫紺のローブに包まれ寝かされている男が見えた。

「葛木……先生?」
なぜこのようなところで寝ているのか?
そう思ったが……間もなくそれが誤ちであることに気付く。
既に呼吸を止めた胸に、ポッカリと空いた拳大の穴。
そう。彼はもうこの世の者ではない、と。

「貴方もソウイチロウ様に縁深いお方。
せめて最期のお見送りにと……」

名を知らぬ女性が静かに語りかける。
その目は……涙に濡れ
星の光に瞳を揺らせていた……

「さようならソウイチロウ……
今もって生き長らえるこの私をお許しください。
……貴方の仇を討った後……必ずやお後を……」

そこまで言って……ついに言葉は嗚咽に呑み込まれる。

風もなく、この季節としてはなぜか暖かい夜の闇に
哀しげな女の泣き声が流れていく……

気が付けば、自分の頬も涙が濡らしていた。
悲しい
死が悲しい
女が泣いているのが……無性に哀しい

学校での事件のおり、今後の生徒会運営について
話し合ったのが……最期の会話。
もう、葛木先生とは声を交わすことも……叶わぬのだ。

悲しみに暮れる中――
月は音もなく森の向こうへとその姿を消していく……
ひとしきり泣いて何か決心がついたのか
その女性は先生の遺骸に手をかざし何事かを念じる。
不思議な言の葉。
簡便な文言なのに、それが聞き取れない。
普段、複雑な発音の経文に接していてなおそうなのだ。

……と、女性の手から光の雫がはらはらと
遺骸の上に零れ落ちていく。
それは青白い炎となってが立ち上がり葛木先生を包んでいく。
音もなく熱くもなく摩訶不思議な炎はゆっくりと
亡骸を焼いていく……

静かな時間が過ぎていく。
星の動きと同じように、ゆっくり冷たく時が過ぎていくだけ。

気が付けば
青い炎の中にあった亡骸は
骨も残さず、文字通り跡かたなく消えていた。
ただそこに、ゆらゆらとまるで人魂のように
青い残り火が揺れているだけだった。

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冬空に舞う桜花 2

■柳洞寺境内
「――待てッ! 待つんだ、セイバーッ!」
「――ッ!?」

『令呪』

それに反応したセイバーは、まさに振り下ろそうとしていた剣をそのままに
俺の前に飛び退いてくる。

「な――何故止めるのですかッ?
この間合いであれば、キャスターが如何なる術を使おうとも――」
「そうじゃないんだ。様子がおかしいとは思わないか?」

見れば、キャスターも俺たち同様、身構えたままその動きを止めている
彼女にとって、まさに千載一遇のこの隙を突くわけでもなく

「先生は……キャスターに殺されたんじゃない。
他の……誰かに、何者かに殺されたんだ。
あの傷は、キャスターの持つ短剣の剣傷痕じゃない。
もちろん魔術で出来た傷でもない」

「ですが――」

例えそうであっても、このサーヴァントを倒さぬ理由にはならない。
そう、セイバーの瞳が言っている。

だが――

「……今のキャスターからは、戦意が全く感じられない。だろ?」

「…………」

戦意、と聞いてセイバーは口を閉ざす。
騎士道を重んじる彼女としては、例え相手が仇敵であろうと
戦意を消失した者を討つことは憚れるのだろう。

キャスターは、そんな俺たちの様子をどう見てとったのか。

彼女は警戒を解き、葛木先生の脇にゆっくりと腰を落とすと
外れかけていた眼鏡を正し、乱れた髪を整え、
そして――
そして、その亡骸の胸にそっと顔を埋めた。
その仕草は……優しく、そして哀しみに溢れていた……

S0101b

泣いている
泣いている
泣いている

 

キャスターがこの葛木という一人の男をどう思っていたのか……
キャスターにとって、それはどういう存在だったのか……
それが痛いほど伝わってきてしまう。

「セイバー。そしてセイバーのマスター。
今、貴方がたに斬られるも本望です。
ですが……今しばらく見逃してもらえるのなら……
その恩に報うことをお約束しましょう……」

俺は何も言わずに……いや、何も言い出すことができないでいた。
――そう。
愛する者を失い、ただその死を見つめていることしかできない
その哀しみの様子が……押し潰しそうなくらい胸を締め上げる。

もしも……自分が彼女の立場に立たされたのなら……
もしも……愛する者を目の前で失うことになったのなら……
そう思っただけで……精神が幾重にも凍てついてく。

セイバーも俺の気持ちを察してか、ここに来てようやく剣を収める。

「…………」
キャスターは深く頭を垂れると、
身に纏っていた紫紺のベールを亡骸にかけ
二人の姿を闇の中へと透過させていった。

気が付けばそこに血の痕跡は一切なく
鉄の臭いも風に凪がされ
殺人を思わせるものは――微塵もなく消えていた

「……シロウ。気付いていますか?
ここに長居は危険です。とてつもなく嫌な気配がします。
我々は何者かに……それもかなりの数の者に見張られている。
ここに住む多くの者たちを案ずるのであれば、
早々にここを立ち去るべきです。
我々の存在が家の者たちを危険に晒しかねない」

「ああ、そうだな。いったん戻ろう。
家に寝かしつけてきた桜の様子も気になるし、な」

俺とセイバーは踵を返し、柳洞寺を後にした。
冷え切った山道を下り終える頃には……
……あの異様な視線の気配は消えていた。

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冬空に舞う桜花 1

■柳洞寺へと続く参道
セイバーに続いて山道を駆け上がる。
目の前に最初の難関、山門がその偉容を現すが……そこにいるべき
護りのサーヴァントはついぞ姿を見せなかった。
ただ一度、セイバーが警戒の目を逸らした一瞬があっただけ。

「どうしたセイバー?」
「いえ……脇の茂みに、剣が落ちていたように見えたのですが……
錯覚だったようです。このまま先を急ぎましょう」

「ああ。任せる、セイバー。くれぐれも用心してくれ」
再びセイバーを追って駆け出す。

これは――罠――なのか?
キャスターにとって重要な自分の工房(テリトリー)を、
こうして無防備にするなど通常では考えられない。

――この不可解な状況を……どう捉えるか。
だが、悠長に立ち止まって考えている時間はなさそうだ。
セイバーは山道を走破した勢いそのままに
一気に山門を抜け境内に踏み込もうとしている。

その背中に、彼女の戦術が読みとれる。
『今は勢いこそが全て』なのだと。

■柳洞寺境内
セイバーに遅れじと境内に飛び込むが――
――そこはいつもと変わらぬ柳洞寺であった。
たった一つの違いを除いて……

「――?」

境内の一角、本堂の脇に……ぼんやりと佇む女の姿があった。
女は何かに気取られているのか、
セイバーや俺に一切の関心を寄せない。
ただ……地上にある「何か」を凝視している、だけだった。

「キャスター!」

セイバーが、その女を剣撃の間合い捉えようと一躍し吠える。
が……それでもなお、女、キャスターは微塵の動きさえ見せない。

「……え?」
深く被ったフードから……何かがこぼれ落ちるのが見えた。
その光る物が落ちていく先。
そこに……見慣れた者の亡骸が静かに横たわっていた。
「葛木……先生?」
彼は――左胸にポッカリと穴を空け、全身を血に染め倒れていた。

「キャスター! 貴様、己がマスターを殺めたか?!」

その言葉で全身を血塗られたキャスターが初めてユラリと動く。
手にした禍々しい作りの短剣が月の光を反射し
不気味で妖しく、それでいて何故か美しく――煌いた。

セイバーの踏み込みに対しキャスターも身構える、が――
そこに気の高まりは感じられない。

待て……何かがおかしい。

「キャスター! 覚悟ッ!」

S0101a

 

 

 

既に彼我の距離は必殺の間合い。
この戦いは一秒を待たず、一閃でセイバーの勝利で終わるだろう。
だが俺は――――

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